世界を見据えた農業技術の研究ができる
―――「AOI-PARC」には、10の研究室と研究を支える中核的実験装置である次世代栽培実験装置を備えているのも特徴ですね。AOIフォーラムにおいて、どのような役割をもっているのでしょうか。
和田:まずAOI-PARCは「農・食・健康」を、総合的に考えた最先端の研究拠点です。しかし、単なる農業研究施設ではありません。新しい農業の可能性を拓き、世界へ向けての情報発信基地としての機能を担っています。
―――世界へ向けてとは、具体的にどんなことを想定していますか。
和田:IoT・AIを活用した「スマート農業」です。農林水産省がスマート農業を導入するために、要素技術としているものを我々は殆ど持っています。またITを使った農業では、仮想空間と現実の圃場を結びつけることが重要です。そのためには計測がキーワードとなります。私は、計測の専門家でもあります。ここでは、ICT技術、光計測、ゲノム技術など、各コアになる要素技術の開発を推進します。
また世界的にも最先端と言える設備を導入していることに加え、それを扱えるレベルの高い研究員がいることも大きな強みであるといえます。
―――ハードとソフトが両立しているということですね。AOI-PARCを活用することで、農業にどのような可能性があるとお考えですか。
和田:これからの農業には産業化が必要です。日本の農業は、ある種の農作物に対して単位面積当たりの収量は世界トップレベルです。世界的な食糧不足に対応するには、この技術を世界に輸出する必要があると考えています。また、異常気象や環境問題に対応するため、複合環境制御を利用した植物工場の需要はますます高まることでしょう。
また、従来型農業の匠の技と言われる「見る」「判断」「アクション」を、ハードウェアに置き換えることのできる専門家がAOI-PARCには揃っています。匠の技を、一般化した産業技術にできる可能性があるといえます。
機能性農作物や、薬の原材料となる植物など付加価値の高いものを栽培しても良いでしょう。効率的な栽培方法の研究をし、単位面積当たりの収量の向上を目指すことも必要でしょう。
さまざまな技術を静岡県から日本各地へ、そして世界へと広げていくことを目指します。
知の集積が農業の産業化を可能にする
―――AOIフォーラムのキーワードには「オープンイノベーション」という言葉がありますね。世界というフィールドで活躍するためには、重要な意味を持ってきそうです。
和田:アンダー・ザ・ワンルーフに、研究者・農業者・企業が集まることは非常に重要です。「農・商・工」「産・学・官・金」が揃うことで、個々では見えて来なかった部分が数多く見えてきます。情報が一つの場所に集積することで、無駄はなくなりスピードが加速します。例えば、研究コストを下げたり品質を管理するにもサイエンスが必要です。
また、最先端の農産物を開発しても、必ず売れるとは限りません。売れるものにするためには、地域の情報や企業努力が必要です。あらゆる知が集まることで、研究のフィードバックを集められる拠点であることが重要なのです。
―――農業技術の研究だけはなく、多くの人や地域連携も大切となってくるのですね。AOI-PARCには和田先生が監修をした次世代栽培装置が揃っていると伺いました。
和田:光・温度・湿度・CO2濃度・風速などあらゆるパラメーター設定をした環境制御装置を15セット以上並べているのが特徴です。そのため、環境因子による生育の違いを数多く試すことができます。世界に向けてさまざまな環境に合わせた農作物の研究を、よりスピーディに行うことが可能なのです。
現在、植物工場の70%が倒産をしています。歩留まりの悪さとコストコントロールの失敗が主な原因と考えられます。現在、静岡県とは環境の異なる香川県の小豆島に設置した植物栽培システムと連携をとり検証レシピの制作を進めています。AOI-PARCでは、それらの検証レシピ、ゲノム解析、量産体制時の歩留り、コストコントロールなども、うまく連携していければと考えています。
―――最後に、AOIフォーラムへの意気込みをお聞かせください。
和田:社会を持続するためには、食糧問題を解決する必要があります。健康医療や環境変化の問題などもあります。そのような課題を、光量子制御技術を使って解決していきたいというのが思いです。役に立たなければ、研究しても意味がありません。AOIフォーラム、静岡県、地域、日本、世界へと技術を展開していきたいと思います。
AOI-PARCで、気軽にお茶でも飲みながらコミュニケーションを取りましょう。それが、アンダー・ザ・ワンルーフの良いところなのですから。
和田 智之
理化学研究所 光量子制御技術開発チームリーダー
東京理科大学大学院理学研究科物理学専攻修了、理学博士。科学技術庁基礎特別研究員、理化学研究所フォトダイナミクス研究センターフロンティア研究員、理化学研究所研究員、2014年より現職。理化学研究所光量子工学研究領域光量子基盤技術開発グループディレクター、光量子制御技術開発チームリーダー(兼)レーザー物理工学、レーザーと物質の非線形相互作用の研究に従事、また、近年では、環境計測、医療、農業、エネルギーといった社会課題の解決に向け基礎研究の成果の応用研究を推進している。