ムーンショット型農林水産研究開発事業 第2回循環型協生農業プラットフォーム社会連携アグリフォーラム

未来への挑戦・あふれる活力・輝く未来型農業

written by 北片 香澄

2023.03.27

2023年3月4日(土)、ムーンショット型農林水産研究開発事業「第2回 循環型協生農業プラットフォーム 社会連携アグリフォーラム」がオンラインで開催されました。全国の研究者を中心に173人の参加申込がありました。

まず、プロジェクトマネージャーである早稲田大学教授の竹山春子氏より開会の挨拶がありました。
「第2回目となる今回のフォーラムはオンライン配信で多くの方が参加しやすいと思いますので、研究成果をより広く知っていただく機会になれば幸いです。今回、プロジェクトに参加いただいているAOI機構(一般財団法人アグリオープンイノベーション機構)とMaOI機構(一般財団法人マリンオープンイノベーション機構)は、ともに静岡県に拠点を置く団体です。この取り組みが国内だけでなくグローバル展開するにあたって、静岡が一つの拠点として発展していくことを期待しています」

山田クリス孝介氏(AOI機構プロデューサー)と竹山春子氏(早稲田大学教授)

続いて、MaOI機構研究所長の五條堀孝氏より挨拶がありました。
「MaOI機構はAOI機構の成功例を参考としつつ、海に関する研究開発を行っている機関です。日本には、人が陸と海の循環を理解し、自然と連携を取って暮らしてきた長い歴史があります。我々は『産業廃棄物を農業資源に変換していこう』というビジョンを、社会連携に繋げていきたいと考えています。
『海洋産業の振興』と『海洋環境の保全』の両立は相反するようですが、世界が向き合うべき課題であり、MaOI機構はまずは駿河湾での実践に取り組んでいます。
例えば、駿河湾海洋データを中心とするデータベース『BISHOP』の構築や、静岡県産水産生物の全ゲノム解読、そして今回のムーンショット型農林水産研究開発事業では『土壌微生物叢アトラスに基づいた環境制御による循環型協生農業プラットフォーム構築』研究の一端を担うなど、活動は多岐にわたります」
と、海洋分野のプロフェッショナルであるMaOI機構がアグリフォーラムに参画した経緯を語りました。

五條堀孝氏(MaOI機構研究所長)

プロジェクトの全体概要

再び竹山氏が登壇し、プロジェクトの目的と概要を説明しました。
「世界では人口増加に伴う食糧不足が深刻化しています。一方、人口減少の一途を辿る日本は、食糧危機問題にどう貢献していくべきなのか、真剣に向き合う必要があります。
世界の中でもヨーロッパは特にカーボンニュートラルへの意識が高く、同時にこの思想はビジネスになると認識され、官民一体となって社会への浸透が進んでいます。日本の農林水産省も『みどりの食料システム戦略』を掲げ、化学農薬肥料の使用を減らす具体的な数値目標を示しています。日本も有機肥料を積極的に活用し、循環型農業に立ち返ることを世界各国とともに目指し始めています。更にこの1年は、軍事的混乱により肥料が日本に入ってこない事態に加え、天候不順も重なり大豆市場の高騰が著しく、1次産業に甚大なダメージが及びました。フードセキュリティのリテラシーが低い日本は、改めて食糧システムについて考えなおす岐路に立たされることとなりました。
このような状況の中、ムーンショットは土壌をターゲットとして環境とのハーモニーを考えしつつ、良質なたんぱく源の量産を目指し、日々研究を進めています。また、研究には社会科学的視点も忘れてはいけません。社会に許容され、消費者の行動を変えていくことが重要視されています」

研究開発の紹介1

MaOI機構上席主幹研究員の齋藤禎一氏より「水産加工残渣リサイクルの現状と有機肥料としての利用の可能性」と題して取り組み紹介がありました。ムーンショットにおいてMaOI機構に与えられたタスクは、以下の2つです。

  1. 静岡県内の水産加工現場において廃棄されている水産物の状況を把握
  2. 水産加工残渣の有機肥料としての利活用の可能性を科学的に検証

齋藤禎一氏(MaOI機構上席主幹研究員)

静岡県内の水産加工現場において廃棄されている水産物の状況を把握

「刺身や缶詰、鰹節など、魚は必ず加工のプロセスが入るため、残渣が発生します。残渣には骨だけでなく内臓や頭なども含まれ、材料の60~70%が捨てられているのが現状です。これらを有効利用、または正しく処分する必要があります。実は静岡県内では、水産加工残渣は全て二次加工されています。各種統計や聞き取り調査から県内で発生した水産加工残渣は実に96~97%が魚油・魚粉に加工され、家畜の飼料やフィッシュミールとして再利用されています。一方、肥料への転用は僅か3~4%にとどまっていると考えられます。狂牛病問題以降、肉骨粉の代替として魚粉が見直されたこと、世界的に養殖業の生産高が上がったことなどが、飼料として魚粉の需要が高まった理由として挙げられます。肥料として使える魚粉が『余っていない』というのが現状です。しかし、肥料製造業者に話を伺ってみたところ、魚は江戸時代から肥料として使われていた歴史があることが分かりました。また、魚を利用することで農作物の品質が向上するという認識を持っていることもわかりました。しかし一方で、明治期に化学肥料が台頭したほか、同じ有機肥料でも植物由来や鶏糞・牛糞の方が安価に手に入るため、コストが割高な魚の利用が減ってしまっています。実際に試算してみると、現在では鶏糞に比べ魚粉は4倍程度のコストがかかるようです。しかしこの事実を逆手に取り、あえて魚粉を使うことで高品質な農作物を生産しブランド化することで、より高価格で販売するという事例もいくつか確認されています」

水産加工残渣の有機肥料としての利活用の可能性を科学的に検証

「静岡県は鰹と鮪、ともに日本一の水揚げ量を誇る県です。そこで、私たちは鰹と鮪を対象に利活用の可能性を検証しています。通常、魚粉は様々な魚を混ぜて作っていますが、それぞれの魚の成分を分析するため、鰹と鮪に分けて粉砕をしてもらうよう、加工会社に依頼をしました。次に、魚粉は粉砕・乾燥の工程で多くのエネルギーを使うため、生の状態から一気に発酵させてはどうだろうか?という考えのもと、生の加工残渣に米ヌカやお茶を混ぜて発酵実験を行いました。結果分析は今後の課題ですが、水産加工残渣から作られる有機肥料の特徴を科学的に特徴づけた上で、植物に対してどのように機能を発揮するのかを明示する必要があります。科学的根拠に基づいた付加価値の高い農作物を生産するビジネスモデル、そして海から陸へのリサイクルモデルの提案に結び付けたいと考えています」

研究開発の紹介2

次に、理化学研究所 光量子制御技術開発チーム・専任研究員の松山知樹氏より、「人工環境下の土耕耕培 ダイズの場合」と題した報告がありました。

松山知樹氏(理化学研究所 光量子制御技術開発チーム・専任研究員)

「私たちはムーンショットにおいて環境制御・測定グループに属し、分析装置の開発をメインに行っています。安定したデータのためには、まず安定したサンプルが必要ということで、大型の土耕栽培用人工気象制御システムを開発して最適な環境を作り出すことからスタートしました。圃場に近い光・大気・土壌環境を人工気象制御下で再現し、根が十分に育つ状態でダイズを育成栽培しました。水は下から摂取できる環境で、照明はLEDを採用し、良好な育成のためそよ風も発生させました。結果、現状播種からエダマメの収穫とダイズの子実採種(1か月後発芽率100%)まで成功しました。また、この環境では通常の約60%まで栽培こよみを短縮することができます。根粒菌は確認されず、ダイズ世代更新・交雑・戻し交雑育種などの早期化には実用可能と考えられます。今後の展開としては、レーザー等の計測技術を組み入れたリアルタイム計測の実装や、各種シミュレーション、未来予測研究のリファレンスとなり得るかの検討などが期待されます」

この後、質疑応答では理化学研究所 光量子制御技術開発チーム・チームリーダー兼AOI機構研究統括の和田智之氏も参加し、活発な意見交換が行われました。
閉会挨拶で和田氏は「食料、エネルギー、医療・介護は、世界が抱える大きな課題で、国ごとにソリューションが異なります。その中で、カーボンニュートラルは1つの重要なソリューションになるでしょう。本プロジェクトに興味をお持ちいただき、我々とともに解決策を考えたいという方は、ぜひAOI、もしくはMaOIにお声がけください。研究レベルでなく、社会実装を目指すには皆様の力が必要です」と呼びかけ、セミナーを締めくくりました。

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