徹底した有機栽培で海外消費者のニーズに応える【株式会社流通サービス】
最初の訪問先は、「株式会社流通サービス」です。まず、ソーラーパネルの下で有機栽培が行われている茶園で服部吉明社長より、ソーラーシェアリングについてお聞きしました。
株式会社流通サービスは、耕作放棄地を再生利用してソーラーパネルの下で抹茶用に有機栽培を行っています。慣行のお茶栽培では日射量の40%が不要という調査結果が出ており、牧之原地区は全国平均と比べて30%ほど日射量が多いため、ソーラーパネルの下でも問題なく育てることができます。また、ソーラーパネルがあることで、霜が降りることもなく、夏の干ばつの影響も受けにくいため、むしろ茶栽培に適しています。
服部社長は、このような栽培方法を静岡モデルとして広めたいと語りました。
生産した有機栽培の抹茶は、健康志向の強い海外で高く評価されています。既に40ヵ国以上の企業と取引実績がありますが、新規で取引を希望する海外企業が後を絶たず、生産が追い付かないため、提携先を探しており、耕作放棄地や廃業する茶農家から畑を借りる話も進んでいます。
また、年間のソーラーパネルの売電収入だけでも3,000万円ほどになると言い、現在はこの電力を使って、自動棚がけ機や自動草刈り機を自社で開発中とのことです。
同社は現在に至るまで30年の歳月がかかりました。服部社長は、農業は結果が出るまでに10年はかかるため、常に10年後の未来を見据え、選択肢が選べるうちに選ぶことが大切だと語りました。
圃場見学後は室内に移動し、同社のギャバ入りの抹茶とコーヒーをいただきながら、時間いっぱいまで多くの質問に丁寧に対応いただきました。
オリーブの六次産業化に取り組み、観光農園まで手掛ける【株式会社CREA FARM】
続いて訪問したのは株式会社CREA FARMです。同社は日本平にも広大なオリーブ農園を保有しており、単体では日本一の面積を誇ります。今回見学させていただいた圃場は、藤枝市にある観光農園「食と農のファームパーク crea village」です。
見学した9月22日は一週間後に収穫を控えている時期で、オリーブの実を実際に見ることができました。オリーブの栽培はとても難しく、日本では98%を輸入に頼っており、国内生産はわずか2%です。こうした中で国内トップクラスの生産効率とクオリティを達成し、今年はニューヨークのコンテストで金賞を受賞しました。星の勇介取締役に同社のオリーブ農園をご案内いただきました。
その後、観光農園内にあるレストランに移動し、西村やす子社長より、同社の六次産業化の取り組みについてお聞きしました。
オリーブは新たな経済作物というわけではないと西村社長は語ります。98%を占める輸入品は酸化劣化が多く、国内で生産した方が質は高いものの、その分高価になり販路がないためです。そこで、西村社長は、会社設立前の2014年の時点で3つの取組が必要であると考えました。
まずは高価でも手に取ってもらえるほどおいしい、コンクールで賞を取れるオリーブオイルの生産を目指すこと。2つ目は加工品を作っていくこと。3つ目は観光資源化していくことです。
そこでまず西村社長は、畑ではなく売り場と顧客を作ることから始めました。2014年に先行して輸入品のオリーブオイルを販売するアンテナショップを作り、高級なオリーブオイルの味を知ってもらい3年後に国産ができることをアピールしました。
その後、静岡でオリーブが育つわけがないと周りが大反対する中、栽培や搾油の技術者を海外から招聘し生産を始めました。このオリーブは、予想を上回る成長と生産量をもたらし、賞を取るほど高品質なオリーブオイルの生産を実現しました。現在では、オリーブオイルを使用した加工食品からコスメ、雑貨まで多くの加工品を開発し、地域住民や行政と連携し、地域活性を目指した観光農園を作り上げています。
今回は、そんな観光農園の第一弾として誕生したレストランで、オリーブの実からオリーブオイルを絞った後の未利用部分を餌に混ぜて育てたオリーブ豚や、鶏が生んだ卵を使ったランチを頂きました。デザートにまでオリーブオイルが使われているまさにオリーブ尽くしのランチに参加者は舌鼓を打っていました。crea villageでは、食事の他にも、オリーブ収穫体験やワークショップなどを楽しむことができます。
オリーブ豚やオリーブ卵は近隣地域で生産されており、同社の手掛ける観光農園は、今後このように地域と協力しながら10年ほどかけて様々な施設をオープンさせ、拡大を続けていく予定です。最後に、西村社長は、皆さんと一緒にやっていきたいと呼びかけました。
自社内でPDCAを回し、生産効率を高めながら新しいチャレンジを続ける【株式会社グリーンテック】
最後に訪問したのは、株式会社グリーンテックです。株式会社グリーンテックは、大規模な温室で主に小ネギの水耕栽培、加工販売を行っています。参加者は2班に分かれ、潮田政和事業統括部長による座学と、販売管理課主任の奥村徳様、吉岡俊之介様による圃場見学を交互に行いました。
同社がハウスを構える焼津市は、南アルプスを起点とする大井川の良質な伏流水が流れており、それを利用していた養鰻池の跡地を有効活用するために昭和60年から水耕栽培が始まりました。2,224坪から始まった同社のハウスは、現在16,164坪(令和5年10月時点)となり、今後も拡大を続けていきます。
同社が高い生産率を誇り、1年中安定して高値で取引している秘訣は、豊富な水資源や日本でも有数な晴天率、温暖な気候など、小ネギ生産に適した環境だけではありません。独自開発した生産管理システムを導入し通年で生産量を管理したり、環境制御システムを導入し生育に最適な環境を管理したりと、様々な面で自動化や徹底管理を行っています。
「勘と経験は無しにする」という決まりのもと、論文や文献にもとづいた対処で、小ネギ栽培30年の実績を支えるベテラン社員だけでなく、20~30代の若いメンバーも一緒に運営をしています。生産性を上げる努力、コストを下げる努力を常にし続けており、週に1度生産会議を開いていると潮田事業統括部長は語りました。
小ネギは、家庭~業務用にグラム数を調整したきざみねぎ、主にスーパー等に卸す袋入りのネギ、加工用の原料としてそのまま出荷するネギの3種類を販売しています。小ネギの年間生産量は約1,360tで年間生産サイクルは6回と、安定した出荷量から直接取引が多く、安定価格での契約を可能にしています。同社はハウスと同じ敷地内に加工場や大型冷蔵庫を保有し、鮮度の良い状態で出荷することが可能となっています。衛生管理や品質向上も徹底的に行い、HACCPに対応した管理体制で運営を行っています。
同社の生産量割合は小ネギが94%、ミニトマトが6%ですが、小ネギに頼っている状況を改善するため、リスクマネジメントとして様々な作物の生産に挑戦しています。現在は、全国でもほとんど例がないニラの水耕栽培を開始しており、小ネギで培った年間安定生産の強みをニラでも実現できるよう日々PDCAを回しています。今後は、ワサビやイチゴにも挑戦したいと語り、現状に満足せず日々努力と挑戦を続ける堅実な経営は、参加者にとって良い学びとなりました。
今回のバスツアーは、3か所とも独自の取組と先を見据えた挑戦、努力で成功している企業を視察することができ、その取り組みだけでなく姿勢や熱量も大変勉強となる有意義な時間となりました。参加した会員も見学や移動の合間に会員同士で積極的に交流しており、短い時間ながら交流を深められた一日となりました。