養蚕に取り組むきっかけとは?
私が養蚕業に興味を持ったのは2015年のことでした。蚕にはタンパク質の可能性が無限にあります。ただ、思いが形になり始めたのはもう少し後のことで、昆虫が大好きな社員が2020年に入社したことがきっかけでした。更にAOI機構のコーディネーターがさまざまな会社と繋いでくれたことで、プロジェクトが一気に動き始めたのです。
養蚕業は、かつての日本の基幹産業で、2000年の歴史があります。近年では衰退の一途を辿っていると言われていますが、私はそうは思いません。昆虫自体、低環境負荷、高タンパク質ですし、今後に可能性を秘めた事業だと考えています。
例えばレタスでも枝豆でも、野菜はなんとなく単価が決まっていて、新たな価値がつけにくいのです。消費者の方々はレタスの単価のベースを100円だと認識したら、それが150円になれば高いと感じます。私たちの法人は農業が主軸ですが、その一方で、このまま単価の決まった商品だけを作っていても、早晩行き詰ってしまうのではないかという恐れがありました。そこに良いタイミングが重なり、第一歩を踏み出すことができました。
AOI機構の伴走支援が支え
この新しい事業において、AOI機構に相談したところ、オープンイノベーション型事業化促進事業(SDGs貢献型)をご紹介いただきプロジェクト進行のスピード感が一気に増しました。事業を進めていく中で悩んだ時にも、次の打ち手に繋がる情報を収集してくれたり、事業がスムーズになるように細かな動きをしてくれました。とても感謝しています。
「絹うなぎ」は商品化の第一弾
「絹うなぎ」に関してもそうです。静岡県榛原郡吉田町の養鰻家に蚕の蛹でうなぎを育てていただき、静岡うなぎ漁業協同組合に蒲焼の加工をお願いできたのも、AOI機構がこのプロジェクトの伴走支援をし、繋いでくれたからです。静岡県はかつて絹織物が盛んで、一説には絹糸を取る際に出た蚕の蛹をうなぎに与えていたそうです。静岡がうなぎの一大産地になった要因に飼料として蚕の蛹が関係していたかもしれないと考え、そこに着目しました。実際、絹うなぎは通常の飼料を与えたうなぎより、うまみ、味の厚み、味の濃さがアップしたというデータ(出典:味香り戦略研究所)があります。応援購入サイトMakuakeでも好評で、100万円を超える支援を受けました。食べた方から「おいしかったよ」と言ってもらえることがいちばん嬉しいです。
■絹うなぎにおける異業種間の連携
事業者:鈴生
連携機関:AOI 機構/西光エンジニアリング/藁科養鰻場/静岡うなぎ漁業協同組合/味香り戦略研究所
2024年、Makuakeで大好評となった絹うなぎ。現在は鈴生オンラインショップでも購入可能。
養蚕業の新たな展開として、蚕の繭からシルクプロテインを抽出し開発したスキンケア「えぶりシルク」シリーズがあります。例えば「えぶりシルク」の日焼け止めは自然由来で、海水浴でつけても海を汚しません。特に欧米では環境に配慮したスキンケアへの規制も多いので、シルク以外の成分にもとことんこだわり、自信を持って世に出せる製品になりました。2025 年1月15日~17日に東京ビッグサイト「第15 回化粧品開発展東京 COSME Tech2025」にブース出展したところ、多くの引き合いがあり、手応えを感じました。
「COSME Tech2025」では国産である繭の原体そのものに興味を持った企業がいくつかありました。スキンケア以外にも、九州大学発のベンチャー企業KAICO(株)との共同事業で蛹を原料とする経口ワクチンの開発も行なっています。
持続可能性と環境負荷低減
農業は社会課題に対し、無限の可能性があると、私は考えています。養蚕業の衰退に歯止めをかけるのは、一時的な奉仕ではなくビジネスとして新しい商品を作ること。新たなビジネスモデルが生まれれば、産業は再び持続可能になります。また、通年で蚕を育てている私たちは、飼料は桑の葉ではなく人工飼料を与えています。この人工飼料は私たちが収穫した野菜の規格外品を加工して生産したものです。私たちは、従来廃棄していたものを飼料に変えるプロジェクトも、並行して進めており、これは環境負荷低減を考えてのことです。さまざまな課題を解決しながら一つの事業を生み出すことは非常に有意義であり、おもしろさを感じています。シルクが再び地域の産業になれるよう、これからも挑戦していきます。自然と共にある農業に取り組む私たちだからこそ、新しい養蚕業が行えるのではないかと考えています。
AOI機構のコーディネーターと鈴木社長、養蚕事業の担当者。情報交換を密に行なっている。
株式会社鈴生
おいしい野菜を作るため「作物づくり」と「人づくり」を掲げている。農業コントラクター事業やピッキングセンターの受託作業、トレーサビリティが可能なQRコードの活用等、農業周辺の事業を多岐にわたって展開。異業種と積極的に交わり、地域活性化も目指している。