地域と事業の課題を農業で解決したい
大静ファーム(株)は、1966年にLPガス容器再検査所として設立した大静高圧(株)と、LPガス容器の処理を手掛ける大静テクノ(株)が立ち上げた農業専門会社です。
静岡県駿東郡長泉町には「長泉メロン」という特産品があります。しかし、経営難や担い手不足により、当初9軒あった生産農家は2軒に減少。このままでは生産が危ぶまれる状況にありました。一方、大静テクノでは、バルク貯槽の告示検査に伴うガス容器の大量廃棄が予想される「バルク貯槽20年問題」に直面していました。廃棄となれば大量の残存ガスが発生してしまいます。
この2の課題の解決策として見出したのが、残存ガスを燃料にして行うハウスメロン栽培です。長泉メロンは夏に一度収穫する季節栽培ですが、回収したガスを暖房設備の燃料にあてれば、真冬の栽培が可能になります。ここに商機を見出し、2022年に少量培地による施設園芸事業に着手しました。
残存ガスを活用した暖房システムを構築
施設園芸事業の開始に伴い、回収したLPガスを燃料にする暖房システムを構築しました。ガス容器収納庫を2つ設け、計20本のボンベで全5棟のハウスの暖房をまかなう仕組みです。これにより、コストを抑えた周年栽培が可能になります。
栽培にあたっては長泉メロン部会に加盟し、農家の皆さんと情報交換を行うとともに、専門家の協力を仰ぎました。農業経営の厳しさを考えると、これまでにない技術の導入が不可欠だと考えたからです。そこでAOI機構に相談し、各研究機関をご紹介いただき、未来に繋がる施設園芸の方法を一緒に模索しました。
先端技術を用いて持続可能な農業に挑戦
栽培方法として選んだのは、連作障害のリスクのない養液栽培です。そこでまず、静岡県農林技術研究所の方に、メロンの養液栽培の基礎を徹底的に指導いただきました。これが実り、2024年6月にはJAの出荷基準を満たす糖度とサイズのメロン栽培に成功し、大きな一歩を踏み出します。また同研究所では、トマトの生産性向上と農業の持続性を追求した養液栽培システムの開発にも取り組んでおり、現在そのシステムをメロンにも適用できないか、ハウスで実験を試みている最中です。
大静ファームでは養液栽培の給液管理システムとして、太陽光の熱量を換算して給液の回数を制御する「日射比例制御」を採用。
化学研究所の研究員の方々とは、品質と収穫量、収益性を上げる研究に取り組んでいます。その一つが、培地への「ペーパースラッジ」の採用実験です。培地には現在ロックウールを使用していますが、購入費・処分費が安くないことと処分時に産業廃棄物になるのが難点でした。そこで試験的に取り入れたのが、再生紙の製造過程で生じるペーパースラッジを原料にした培地(2025年1月に農業資材登録)です。これを使用したメロンを昨秋収穫し、十分な手応えを感じています。ペーパースラッジも処分の際は産業廃棄物となりますが、その前に培地として再利用できる点が我々の理念に合致するとともに、開発は富士市製紙協同組合であるため、地域産業の活性化にも貢献できます。
その他、培地を広げて葉面積を広くすることで、2倍の収穫量を目指す取り組みにも挑戦しています。ただし、長泉メロンは一本の幹に1果実が原則なので、成功した際には自社ブランド「ココマチ」シリーズとして販売する予定です。
また、我々は社員1名、パートさん3名という少数精鋭部隊のため、定植や交配の時期には一時的に人材が不足してしまいます。そこで就労継続支援B型事業所の(株)ワイズの方々に協力いただき、繁忙期を乗り越える工夫をしています。
生産履歴や出退勤記録には、AOI機構の農業作業精密記録アプリ「AOItrace」を使用しています。アプリの提供だけでなく、コーディネーターの和田さんが生産者や研究機関とのパイプ役を担ってくださいました。和田さんはよく「就農者の高齢化や気候変動問題が続く今だからこそ、施設園芸は大きな可能性を秘めています。さらに、資材を地産地消できれば経済の地域循環が生まれ、ひいては新規就農希望者を増やす手立てになるはずです」と話されており、我々もそのビジョンに共感し、二人三脚で歩んでまいりました。
年12回の収穫を目指して
今後の目標は、メロンの「毎月収穫」です。メロンは収穫まで約4ヶ月を要する農作物ですが、4棟のハウスに1ヶ月ずつずらして播種できれば、理論上は年12回の収穫が可能です。この実現を目指して今構想しているのが、制御プログラムの自社開発です。日射比例制御と廃液制御を統合した給液管理システムをつくり、さらなる省力化とコスト削減を目指します。これをもってメロン栽培のロールモデルを確立できれば、より地域の活性化と資源の有効活用に貢献できるはずです。これからもさまざまな方と協力しながら、農業の未来をつくる一端を担っていきたいです。
大静ファーム株式会社
地場産品の維持と残存ガスの有効活用を目指し、2022年に施設園芸事業に新規参入。関連会社では、東日本大震災の長期避難生活における衛生問題に着目し、残存ガスを活用した災害対応型コインランドリーを展開。グループ全体で資源活用と地域発展に取り組む。