全国初!生鮮葉物野菜の機能性表示食品が誕生

【コンソーシアム事例 ソフトケールGABA機能性表示食品取得に関する連携事業】

written by 小高 朋子

2019.03.01

AOIプロジェクトの連携事業者でもある、「株式会社増田採種場」が生産する「ソフトケール」が、葉物野菜分野で「“全国初”の機能性表示食品」として消費者庁に受理されました。これまでAOI機構では、栽培技術の開発支援や事業マッチングなどを実施、サポートしてきました。
 本日は、機能性表示食品を取得するために必要な準備や手順を、株式会社増田採種場 専務取締役の増田秀美さん、フーズ・サイエンスセンター プロジェクト推進部事業化コーディネータの鈴木敏博さん、AOI機構コーディネーターの加藤公彦さんにお聞きしました。また、科学的根拠の評価や届出に協力したAOIフォーラムサポーター会員である「公益財団法人静岡県産業振興財団フーズ・サイエンスセンター」との連携についても詳しくレポートします。

連携事業でこれまでの不可能を可能にする

———なぜ「機能性表示食品」を取得しようと考えたのですか?

株式会社増田採種場 専務取締役 増田秀美氏

増田 :増田採種場は、農業を種から考えて90年あまり。私たちは研究者でありつつ、生産事業も行っています。

これまで、研究者としてアブラナ科の品種の改良・開発に挑んで参りました。日本で初めて「ケール」の品種登録も行っています。品種の開発においては、企業の求める明確な目的に合わせていくことが、とても重要です。

その一方で、生産事業を行う者として消費者へ目を向けたとき「野菜の持つ有効性や機能性に対する評価は伝わりにくい」という問題点を抱えていました。例えば、私たちが「ケールは、とても健康によい野菜です」といったところで伝われなければ、それは自己満足になってしまいます。もっと一般のお客様にわかりやすくお伝えすることは出来ないだろうか…と考えたとき「機能性表示食品」を取得したいと思いました。

しかし、私たちには「機能性表示食品」取得に対するノウハウがありません。そこで、フーズ・サイエンスセンターさんとの連携事業がスタートしました。

公益財団法人静岡県産業振興財団 フーズ・サイエンスセンタープロジェクト推進部 事業化コーディネータ 鈴木敏博氏

鈴木:フーズ・サイエンスセンターでは、新たな食品市場の拡大といった社会的な背景のもと、食品関係産業活性化を目指しさまざまな支援を行なっています。

今回はAOI機構さんとの連携のなかで、「機能性表示」の取得を目指している増田採種場さんに対し、食品関連事業者が機能性表示食品の開発や届出などに関して支援をさせていただくことになりました。

まず「機能性表示食品」とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品です。販売前には、安全性および機能性の根拠に関する情報などを消費者庁長官に届出しなければなりません。そのため専門的な知識が必要不可欠です。フーズ・サイエンスセンターでは、静岡県立大学などと連携し健康効果の科学的根拠を証明する体制を整備しています。また、届出申請までの一貫支援体制を構築しています。

———まず、なにから始めれば良いのでしょうか?

増田:これまで「機能性表示食品」取得に関する知識はありませんでしたが、フーズ・サイエンスさんのお力を借りながら進めていくことになりました。

まず、生鮮葉物野菜の前に、加工食品「旬搾り青汁GABA ケール」において「機能性表示食品」を取得することになりました。しかし分析を行うと、加工・製法によりGABAが流出してしまうことがあるとわかりました。そのため、GABAの流出を抑えるための加工方法などを模索していきました。また「1日当たりの摂取量目安」なども相談させていただきました。その間、逐次データ同化をしていただきました。

次に、生鮮葉物野菜においても、難しい問題と不安を抱えていました。ケールは周年栽培を行っており、年間を通して一定以上の数値が計測できなければなりません。天候や季節に左右されることなく、安定生産を実現しなければいけないのです。問題は山積みでしたが、一つひとつ解決していきました。

一般財団法人アグリオープンイノベーション機構 コーディネーター 加藤公彦氏

加藤:「機能性表示食品」を取得するためには、ソフトケールの安定的な生産性と内容品質を両立することが大切です。

健全な種子の設計・開発により発芽率を高めるだけでなく、種子の高品質化を実現することで、安定的な収穫が可能となります。そのため、機能性成分のほか、生育、収量、品質、食味にも優れた高機能ケールの品種の選抜をしてきました。加えて、定期的な土壌の分析や施肥設計も大切な要素です。

また、機能性成分と食味のバランスの取れた、周年安定栽培技術の開発が必要でした。そのためには、病害虫に対する適切な防除対策などをマニュアル化していくことが重要です。これらは、引き続き研究を続けていく予定です。

情熱を持ったスピード感ある仕事が“全国初”を生み出した

———「機能性表示食品」までの具体的な手順を教えてください

鈴木:まず「機能性成分の科学的根拠を証明すること」と、「機能性関与成分の含有量を担保すること」が、一番大変なところだと思います。

機能性表示食品の場合、科学的根拠を証明するために大きく分けて2つの方法があります。1つは「研究レビュー」といい、世界中の論文等の学術情報を収集し、内容をまとめた結果を報告書として作成する方法です。2つは、「ヒト介入試験」といい、ヒトに食品を摂取してもらい、その効果を血液検査などにより評価する方法です。「ヒト介入試験」は膨大な費用と時間を要しますし、また「研究レビュー」では、論文などのデータベースには個人でアクセスすることは困難です。そこで今回、アカデミックな専門知識を保有する県立大学に「研究レビュー」の作成をお願いしました。

また、「機能性関与成分の含有量の担保」については、季節、栽培圃場、栽培方法などによる機能性成分の変動を確認する必要があり、大変多くの分析データの蓄積とともに、適切な栽培管理マニュアルの確立が必要となります。そこで、栽培技術や分析技術に高度の専門知識を有する県農林技術研究所に多大な支援をして頂きました。

このように、AOI機構さんや私たちのような公的支援機関を活用し、大学や公設試験研究機関と連携することが最善かと思います。

増田:また、書類制作もとても難しいところです。書類の書き方を修正するだけならすぐに対応できますが、新しいデータが必要となった時には簡単ではありません。

例えば、消費者庁から「ソフトケール」加熱調理時においての、GABAの有効性を問われることなどがありました。しかし連携体制を整えてくださっていたため、すぐにエビデンスを出してもらえたことは、とても有り難いことでした。

そのため、通常であれば1年以上かかることもあるという届出申請までの工程を、6ヶ月ほどで仕上げていただくことが出来ました。

というのも、株式会社増田採種場が生産する「ソフトケール」は、葉物野菜分野では、全国で初めての「機能性表示食品」として消費者庁に受理されましたが、その一ヶ月後には“第二号”が受理されたそうです。もし、少しでも遅ければ“全国初”にはなれなかったのです。

そのスピード感を大切にしてくださったことにも、とても感謝しています。種子の高品質化から栽培技術、そして科学的根拠の評価や届出まで、私たちだけでは決して成し得なかったことが、連携することで実現することができました。

鈴木:加熱調理に対する問題点は、県農林技術研究所でいち早く対応してもらいました。その結果、加熱することでGABAの含有量が増加することが、科学的データの裏付けのもとに証明することが出来ました。“全国初”となれたのは、増田さんの情熱とスピード感ある仕事のたまものだと思います。

中小企業にとって大きなメリットとなり得る「機能性表示食品」

———「機能性表示食品」を習得したことで、なにか変わりましたか?

ソフトケール GABAのパッケージ

増田:バイヤーさんに興味を持ってもらえるようになりました。おいしさだけでなく機能性をわかりやすく提示できるため、お店での販売がしやすくなるようです。そのため、展開店舗も増えました。さらに、卸値をあげることもでき利益率が高くなりました。

また、これまで興味のなかった方々に試食していただける機会が増え、おいしさを理解してもらうことができました。既に、新たに首都圏のホテルやレストラン、スーパーマーケットなどの取り扱いが決まっています。

自社のオンラインショップでの反応もとても良いです。

これからは、「GABAは野菜から摂る時代」です。おいしく食べて、健康寿命を支えていけたらと思います。

加藤:機能性表示食品取得は、大企業だけのものではありません。消費者にとっても理解しやすい機能性表示食品は、ますます中小企業にとって大きなメリットになることは間違いないでしょう。

自社の商品を「どうPRしていくか?」を考えることはとても重要なことです。多くの商品が溢れるなか、販売者も「消費者にどうPRしていくか?」に悩んでいるからです。もし機能性表示食品のように、他社との差別化を提示できることができれば、生産者と販売者の間でWin-Winの関係が築けるはずです。さらに、お客様にも喜んでいただけるのです。

それを増田さんが、実際に証明してくれました。これから、増田さんに続く企業が次々と現れてくれることを願っています。

増田:私たちは、品種改良できる強みを持っています。ですから、次の機能性表示食品取得も視野に入れてチャレンジを続けていきます。「中小企業でも複数の機能性表示食品取得が可能なんだ!」と、新しい希望の道を開くことができたら嬉しいですね。

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