ものづくり企業の視点が農業ビジネスを大きく変える

〜AOI機構×EMS-JP×静岡県発明協会イベントレポート〜

written by 小高 朋子

2019.03.22

3月15日AOIフォーラムサポーター会員「EMS-JP」「静岡県発明協会」との合同企画で、ものづくりの視点から農業分野へのIoT導入事例のご紹介と、平成30年度の静岡県農業ロボット開発事業補助金に採択された企業からのご提案を柱とした情報交流が行われました。

電子機器開発に特化したコンソーシアムで農業分野を支援

EMS-JP 事務局長 岡祐之さん

EMS-JPは、全国の170社の電子機器開発(ものづくり)企業で組成されたコンソーシアムです。グループ企業間のネットワークで、ハードウェアからソフトウェア開発、実装・組立など、試作段階からの共同開発を可能とし「Win-Win」のビジネスモデルを提案します。

新たなるものづくり創出力を有するEMS-JPのサポートのもと、集積データなどを最適な方法で分析・数値化することが出来れば、農業分野で求められている「気象予測」「土壌分析」「匠の技を見える化」ほか、さまざまな分野に応用できる可能性が広がることでしょう。

ともに学び合うもの同士が、繋がりあうことで新しい価値を創造されることを期待し情報共有と議論が行われました。

ものづくりの視点から農業分野へのIoT導入事例

まず、第1部ではEMS-JP会員企業から2つの事例が紹介されました。

1つは、「IoT植物工場向けセンサモニタリングシステムとモータ・ポンプの故障予知センシングシステムのご紹介」。講師は、マイティ・テクノロジー株式会社代表取締役小﨑政信さんです。

マイティ・テクノロジー株式会社 代表取締役 小﨑政信さん

同社では、各種コンピュータのハードウェア、ソフトウェア開発などを行っています。主な開発分野は、FA、通信、計測、画像システムのH/W、S/Wの開発、設計です。所有する技術は、高速電子回路、アナログ回路、サーボ技術、ソフトウェアなどです。

これらの技術を用いて、新たに4つの農業分野のIoTに取り組んでいます。

  1. 植物工場向けセンサモニタリングシステム
  2. 土壌センサモニタリングシステム
  3. 故障予知保全センサモニタリングシステム
  4. 神奈川県の取り組み(グリーンハウス)

1.は、株式会社アグリ王との取り組みです。pH、ECの測定に電動シリンダを使用した情報制御アプリが入った PCから起動、測定することで人が介在しない完全無人センサモニタリングシステムになっています。センサの種類は、温度、湿度、CO2などです。

2.は、某大阪企業との取り組みです。畑にセンサ(電池駆動)を設置し、地中のpH、EC、温度、水分量などを測定しPCに取り込みます。

3.は、モータ、ポンプの故障・異常の前兆を予知するシステムです。24時間常に稼働しなければいけない機器は、故障が起こってから交換したのでは植物に大きな影響を及ぼします。温度・加速度・電流センサなどの値を計測することにより故障を予知しトラブルを最小限に抑えます。

4.は農業関連技術を持った事業者で集まり、相互連携を取ることで栽培における新たな共同ソリューション、商品開発を行おうとするものです。

また、導入コストも大手企業メーカに比べ導入しやすい価格での提供を行っています。これらの事例のように同社がこれまで培ってきた技術を用いることで、お客様の多様な要望に応えながらバックアップを行っています。

2つは、「スマートアグリシステム(環境状態監視)のご紹介」。講師は、株式会社MTMコミュニケーションズ取締役会長丹羽正義さんです。

株式会社MTMコミュニケーションズ 取締役会長 丹羽正義さん

同社ではIoT分野を中心に端末の開発製造販売、過去の通信機器(コンシューマー製品)モバイル機器の開発から販売までの経験を活かしたハードウェアの提供を行っています。単体製品の開発だけでなく、お客様ニーズに寄り添った商品を開発したいという想いがあるといいます。

これまでのプロダクト実績として、ログBOX、PITBOXⅡ、駐車場監視システム(スマホで運用)などがあります。

農業分野との取り組み事例として、株式会社IT工房Zの「あぐりログ」との関わりが紹介されました。2016年に、これまでの機器では不安定であること、ハードウェアに対し顧客が不安に思っていること、などを理由にモバイル通信モジュールの提供依頼があったことが始まりです。

「あぐりログ」の基本機能は、ハウス環境を簡単にモニタリングすることができること、ユーザー同士で計測値のシェアができることです。設置工事が不要で、スマートフォンやPCのブラウザでクラウド管理することが可能です。設置から使用に要する時間が、たったの5分から10分という手軽さも魅力の一つです。

基準の接続センサは、温湿度、CO2濃度、その他オプションセンサも多数あります。通信によるデータ管理は、ログ保有者の一般アカウントに加え指導員アカウント、また研究者アカウントなど拡張することも予定しています。自分のハウスだけでなく仲間の情報も共有し情報交換をすることで、篤農家の情報に学ぶことができるといいます。

これから目指すことに「環境モニタリングを当たり前に」「環境モニタリングをみんなで行ってデータを共有」「要望を実現」などをあげ、他サービスとも連携しながら新たな機能開発にも力を注ぐ考えです。

静岡県農業ロボット開発事業費補助金採択企業からの提案

第2部は、AOIフォーム会員から2つの情報提供がありました。

1つは「JAXA準拠LoggerOne」が可視化させるデータ分析の可能性」。講師は株式会社イージステクノロジーズ代表取締役CEO茅野修平さんです。

株式会社イージステクノロジーズ 代表取締役CEO 茅野修平さん

同社では、各種超小型センシングデバイスの設計、開発、データマイニングサービス(ビックデータ解析)、映像分析・解析などを行っています。「ハイテクをジェネリックし全ての人に平等な安心と安全を提供する」をコンセプトにしています。

技術の挑戦には3つの柱があります。1つは、どこにでも・どんなものにもつけられる「超・小型化」。2つは、データ解析(AI・データサイエンス処理)。3つは、圧倒的なコストパフォーマンスです。

JAXA基準で開発された「超小型汎用記録計『Logger One』」は、あらゆる「場所」「ヒト」「モノ」に装着が可能な、手のひらサイズのITソリューションです。適用可能分野の一例には、一般車両・物流貨物輸送車などの車両挙動情報収集による安全運行情報管理などがあります。

これまで農業(漁業)分野では、水揚げされる海域から漁港→漁協→加工場→販売までの一連の輸送経路を可視化することでトレーサビリティ(産地偽装対策)の確保に取り組む研究開発プロジェクトにも参加しています。位置情報については、独自補正による高精度位置測位を実現し、通常15〜20mほど起こるGPS誤差を最大5mm(測位環境による)まで縮減に成功しました。

また、現在は農業ロボット開発事業を行っています。画像分析・解析技術を用いて、静岡県内でお茶の育成状況と土壌センシングを行っています。畑にカメラを同方向に3箇所設置し、中心点となる観測ポイントを計測することで育成状況を統計。出芽時期を予期し、収穫最適時期の予測などを行います。露地栽培箇所(位置情報)による育成度の違いなども集計することができます。

今後も、農業分野に技術を転用することで大きな可能性がありそうです。

知財戦略と活用について

最後に「知財戦略と活用について」。講師は一般社団法人静岡県発明協会静岡県知財総合支援窓口沼津支所窓口相談担当者中村宏之さんです。

一般社団法人静岡県発明協会 静岡県知財総合支援窓口 沼津支所窓口相談担当者 中村宏之さん

同法人は、発明の奨励、科学技術の振興を図るとともに、地域経済及び産業の発展に寄与することを目的とした団体です。静岡県知財創業支援窓口を設置しています。また知財総合支援窓口とは、中小企業や中堅企業が経営の中で抱える、アイディアから事業展開までの知的財産に関する悩みや相談を、窓口支援担当者がワンストップで受け付ける相談窓口です。全国47都道府県に設置されています。

企業における「知財戦略」とは、それらを活用することで経営目的の実現を図る戦略を意味します。そのため、企業の規模や置かれている状況によって、取りうる戦略は大きく異なります。

まず、知財戦略は「事業戦略」「研究戦略」「知的財産戦略」が三位一体である必要があります。そして、知的財産権の種類は大きく分けて2つに分かれます。1つは、「知的創造物についての権利等」で、特許権・著作権・農業分野であれば育成者権(種苗法)などです。2つは「営業上の標識についての権利等」で、商標権(商標法)・商号・最近加わったものに地理的表示などがあり、品質、社会的評価その他の確立した特性が産地と結びついている産品の名称を保護するものなどがあります。

特許出現から特許取得までの流れは、大まかに考えて5年ほどがかかります。知財権の取得、活用は長期スパンで検討する必要があるといいます。また、企業は業界における地位(シェア・順位)によって、マーケティング戦略を考えなければいけません。例えばリーダー的地位であれば、世界的な知財情報全般の収集・分析、出願戦略、特に商標は重要な項目となってくるでしょう。ニッチャーであれば、限定した模倣対策、情報流出防止対策、生存空間全体の差別化をバックアップする取り組みが重要となります。

今、農業分野では農水省でも機密情報の漏洩防止に力を入れ始めています。すでに、日本の品種が海外で無断に栽培されている事例も起きています。これからの日本の農業の発展のためには、機密保持契約や情報セキュリティーの問題も考えていくことが大切であると注意を喚起しました。

会場の参加者からは、“それぞれの導入コストへの目安”についてや、“環境データの知的財産権”について、などの質問もあがりディスカッションが行われました。

ものづくりの視点から農業分野を考えることで、これまで抱えていた課題解決の契機となり、新しい価値が創造されることを期待して交流会は締めくくられました。

Let's join us

AOI
フォーラムに
参加しませんか?

AOIフォーラムは、先端技術を農業分野に応用し、静岡から「世界の人々の健康寿命の延伸と幸せの増深」に貢献するための会員制のフォーラムです。AOIフォーラムへの入会に興味のある方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。

フォーラム会員との交流やイベントへの参加を通じて、農業業界のトレンドの情報収集ができます。

フォーラムでの活動やWebサイトを通じて、協業を求めている事業者や、自社事業に活用可能な研究と出会えます。

コーディネーターとの相談を通じて、事業計画作成サポートや補助金情報など、プロジェクト立ち上げの支援を受けられます。