オープンイノベーションを実現し、新しい価値の創造を

〜AOIフォーラム会員総会レポート〜

written by 小高 朋子

2019.08.06

 令和元年7月19日、プラサヴェルデ(沼津市)にてAOIフォーラム会員総会が開催されました。
 産業分野や学術分野が互いの技術やアイデアを持ち寄って、農業に新たな価値を生み出し、世界の健康寿命の延伸と幸せの増深に貢献することを目的に、オープンイノベーションの場として組織されたAOIフォーラムは、発足から現在までに、会員数189(一般会員155、サポーター会員34[2019年7月18日時点])にもなりました。同日は多数の会員さまにご出席いただき、これまでの取り組みとこれからの活動について報告されました。

AOIフォーラムが目指すもの

一般財団法人アグリオープンイノベーション機構 岩城徹雄 専務理事兼事務局長

はじめにAOI機構岩城専務理事より、AOIフォーラムの取り組みについて報告されました。

AOIプロジェクトでは、農・食・健康の連携、農・商・工の連携、産・学・官・金融の連携を支えるプラットフォームづくりに取り組んで来ました。2年間のコーディネートから、事業化を目指して具体的な研究等が進んでいるものは24件。これらの案件により静岡県内での経済効果は、2021年には約18億、2026年には約60億円と想定されています。
AOIプロジェクトが目指すグランドデザインに「大きな未来を描き、小さく産んで、走りながら大きく育てる」という考え方があります。現在フォーラム運営の財源となっている地方創生交付金等が終了した後も、会員の皆さまが儲かる仕組みとして発展し続けていくことが大切です。そのためには、既存の機能のビジネスマッチング、研究調整、知的財産支援に加え、TLO(技術移転機関)、資金調達支援、人材育成、専門的なコンサルティングなどの機能を実現していく意向です。
また、支援機関として、一般的な総合相談サービス、個別案件に対する研究調整などの具体的な取り組みをしていきますが、支援した案件でメリットを享受される方々からは対価をいただくことで、より充実した支援・サービスに繋げていくことを検討課題としています。

「これから、会員さまへのますますのメリット拡大のためには、会員数を増やし、オープンイノベーションの輪を広げることで、シーズとニーズをマッチングさせていくことが重要です。つきましては、今後とも新規会員の勧誘・紹介につき、皆さまのご協力をお願いいたします」と岩城氏。

“全国初”となったプロジェクト事例

株式会社増田採種場増田秀美専務取締役

続いて、AOIプロジェクト成果第1号となった具体的な取り組み事例として、AOIプロジェクト参画事業者である株式会社増田採種場 増田秀美 専務取締役より「全国初!ケール(新鮮葉物野菜)の機能性表示食品」の取り組みについてご講演いただきました。

同社が生産する「ソフトケールGABA」は、生鮮葉物野菜としては全国初の機能性表示食品として消費者庁に受理されました(平成30年12月21日付け)。
GABAには血圧高めの方の血圧を下げる効果がある可能性が報告されています。しかし、葉菜類の機能性表示には、一年を通じて機能性成分を一定以上に含有するよう安定化することや、機能性成分と食味等とのバランスを保つなどの課題がありました。
そこで、AOIプロジェクトで、1)高機能ケール種子の選抜アドバイス、2)安定栽培技術の開発、3)エビデンス取得のための成分分析・栽培マニュアル化、4)共同研究パートナーのマッチングなどの支援を受けました。
また、申請中に消費者庁より加熱調理に対するデータを求められた際にも迅速に対応いただきました。データ分析の結果、加熱することでGABAの数値が上がることがわかり新たな発見となりました。
そしてエビデンス提出から4ヶ月後、血圧が高めの方の血圧を下げる機能のあるGABAが含まれる「生鮮葉物野菜で全国初の機能性表示食品」として消費者庁に受理されました。そのわずか1ヶ月後、他県で第2号が受理されることになりました。これを受けて「スピード感のある対応をしていただいたことで、“全国初”をいただける結果となりました」と増田氏。
今後の課題は、より多くの方に認知してもらうこと。同商品は、すでに新宿伊勢丹では定番販売が始まっています。「ケールは健康寿命の延伸にも貢献できる野菜です。静岡県をケールの聖地にしていきたい。一民間企業だけでは成し得ないことも、AOIプロジェクトは可能性を広げることができる場所」さらに「生産者の皆様が培ってきたノウハウ・技術を提供することでプロフィットを得る、ライセンスビジネスのプラットフォームが確立されると良い」と、今後への期待も寄せました。

特別講演「我が国におけるスマート農業の動向」

慶應義塾大学環境情報学部 神成淳司 教授

AOI機構統括プロデューサーであり、慶應義塾大学環境情報学部教授・内閣官房副政府CIO / 情報通信技術(IT)総合戦略室長代理・国立研究開発法人 農研機構 農業情報連携統括監の神成淳司氏より「我が国におけるスマート農業の動向」についてご講演いただきました。

我が国は、AI(人工知能)研究、社会実装、人材育成等で米中に後れをとっています。世界の主要各国もAIを基幹産業と位置づけ、国際競争力を高める戦略を策定している状況です。
IT新戦略の全体像としての、基本的な考え方は「国民が安全で安心して暮らせ、豊かさを実感できるデジタル社会の実現」。国民一人ひとりがデジタル化の恩恵を実感できるよう、広範な分野における「社会実装プロジェクト」を推進しています。スマート農業関連では、農業データ連携基盤(WAGRI)を加工・流通・消費までに拡張したスマートフードチェーン(SFC)の構築に向けた開発を行っています。SFCを本格稼働することで、データ駆動型農業生産システムを実現し、2025年までには、農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業の実践を目指します。
農業現場における生産性を飛躍的に高めるためには、データをフル活用できる環境を整備することが不可欠です。WAGRIでは、様々なデータを集約・統合することで、これまで達成できなかった生産性の飛躍的向上、高品質な農産物の安定生産などを実現させます。データプラットフォームとして、データ連携機能・データ共有機能・データ提供機能を有し、様々なデータを駆使して生産向上・経営改善に取り組むことが可能です。
WAGRIが生み出すメリットとして、農業者には、異なるメーカーのシステムやサービスが連携可能になることで、特定のメーカーに依存せず経営形態に応じて選択できることなどがあります。企業等には、様々な農業関連システムを開発しやすい形で取得し、より高いサービスを提供できることなどです。
さらに、WAGRIの機能を販売から販売・輸出まで拡張することにより、SFCの構築を進め、労働生産性向上、消費・輸出拡大、フードロス削減、環境負荷軽減にも取り組む意向だと言います。
「知を結集して、食産業を幅広く変えていきたい。AOI機構の役割として情報の提供や、研究プロジェクトに参画する機会などをつくるなど、皆さまと連携していきたい」と、神成氏。

AOI-PARCにおける研究動向(~進行するビジネスマッチングの事例~)

国立研究開発法人 理化学研究所 光量子光学研究センター 光量子技術基盤開発領域 和田智之 光量子技術開発チームリーダー

最後に、AOI機構シニアアドバイザーであり、国立研究開発法人 理化学研究所 光量子光学研究センター 光量子技術基盤開発領域 光量子技術開発チームリーダーの和田智之氏より、「研究開発プロジェクトについて」報告がありました。

AOIプロジェクトではさまざまな研究開発を行っていますが、その1つに、光制御技術の機能性植物栽培への展開があります。植物の育成には、ゲノムと環境因子の大きく2つが作用します。ここでは、制御と計測のいずれも光で行います。あるいは、香り成分の中赤外分光による鮮度の評価技術の開発や、DNAマーカーの開発により地域ブランド・自社ブランドの保護・管理に役立てるなどの研究も行っています。
また、AOI-PARCにはメタボローム解析機器が揃っています。そのため機能性成分の分析やあらゆる土壌解析も可能です。
さらに現在、育種のビッグデータを集めるスマート育種プロジェクトの基盤構築も行っています。
「本日は、簡単に研究開発中のプロジェクトをご紹介しましたが、他にもさまざまな研究を行っています。もし、ご興味のある方・企業さまがいらっしゃれば、ぜひ参加して欲しい」と、和田氏。

総会閉会後の情報交換会では、参加者同士の意見交換が活発にされ、新しいアイデアの発見や今後のビジネスチャンスへの可能性が広がる場となりました。
AOI機構では、このような会員総会を例年開催していき、会員間の交流を深めていくとのことです。

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