農業ICT技術の現場導入に向けて

AOIフォーラム第2回セミナー「世界と日本の農業ICT」

written by AGRI JOURNAL編集部

2018.02.27

2018年1月17日(水)、 沼津商工会会議所にて、第2回となるAOIフォーラム第2回セミナー「世界と日本の農業ICT」が開催されました。農業ICT導入に向けて各国ではどのような取り組みが進んでいるのか、また農業ICTの技術・サービス開発に向けて何が求められるのか等について、研究者サイドと農業者サイドの双方から、最新の事例を用いながら活発な意見交換が行われました。

農業データプラットフォームの現状

最初の講演は、第1回に引き続き、慶應義塾大学 環境情報学部の神成淳司准教授にご登壇いただきました。「農業ICTの今後」と題して、2017年11月に視察されたドイツ・ハノーファーでの世界最大規模の農業展示会“Agritechnica 2017”でのレポートを交えながら、ヨーロッパを中心とした世界と日本の最新農業ICTサービスの現状についてお話されました。

慶應義塾大学 環境情報学部 神成淳司准教授

「ヨーロッパの農業ICTの傾向として、農場にセンサーを設置するようなサービスは減少しています。メンテナンスコスト、通信コストが掛かるためです。現在は、農機そのものにセンサーを搭載して、作業しながらデータを取得する方法が主流になっています」と、まずは大きな流れを概説しました。続いて最新事例として、2018年8月のサービス開始が発表された、気象や農薬、品種など異分野のデータ連携を実現するサービス“agrirouter”や、農家の匿名データベース“Farmers Business Network”などを紹介しました。

「こうした流れの中で注目すべきは、EUの研究開発プロジェクトとして開始されたIoF2020(Internet of Foods & Farm )です」と、神成氏は話します。

このEU版の農業と食のデータプラットフォームは未だ構想段階にあります。AOI機構も参画している日本のWAGRI(※)と目的は似ていますが、WAGRIは既にプロジェクトがスタートしており、機能面を見ても日本が一歩リードしていると言えます。

例えば、WAGRIは実装済のAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)が85を超えています。今後APIは開発者向けに公開され、プログラミングの知識さえあれば誰でもWAGRIからデータを抽出してアプリを作る事が可能です。WAGRIでは農業の生産現場で生まれるデータの流通だけでなく、そのデータを応用し、物流・加工、そして海外輸出までも見据えた構築を行なっています。

最後に「これまで日本産業界の中で後れをとっていた農業ICTですが、情報の連携・共有に関しては、今後はむしろ医療分野などを抜いて、最先端を行くことになります」と、神成氏は締めくくりました。

※WAGRIについては、第1回カンファレンスの神成氏の講演レポートをご覧ください。

日本らしい農業プラットフォームの実現を

次に「農業ICT技術の現場定着にかかる課題と今後」と題して、香川県農業試験場府中果樹研究所 前所長で、現 オーチャードアンドテクノロジー代表取締役の末澤氏にご登壇いただきました。

オーチャードアンドテクノロジー代表取締役 末澤氏

末澤氏は農業ICT技術の現場導入のこれまでの歩みを振り返りつつ、「地域や農家の課題解決あるいは実現を目指したビジネスモデルに、ICT技術は不可欠な要素であったのか? 目標と手段の逆転はなかったのか?」と自問します。

自身の経験から示された答えとして、今後農業現場でICT技術を導入し、効果的に活用していくためには、下記の3つのことが重要になると示しました。

  1. 導入の合理性(課題の解決のために、本当に農業ICT技術を活用することが必要なのかを検討する)
  2. データを利用したい指導者側とデータ提供者である農家との利害の一致(農家にとっての直接的なメリットの明示不足がないようにする)
  3. 実行主体を明確にすること(ICT技術を導入したものの現場担当者が多忙で活用できない、ということのないようにする)

一方、各地域の農業の現状として、例えば果物を見ると、今や地域オリジナルでないものを探すのが難しくなっています。

「“地域オリジナル”がコモディティ化してしまっており、相互陳腐化が起こりつつあります。そんな今求められているのは、局地戦に生き残ることではなく、輸出といった海外など共通の目標に向かって各地域が戦略的連携を行うビジネスモデル(上位概念)です。農業ICT技術は、そのために必要不可欠です」と末澤氏は言います。農家間・地域間の協調を促すような農業ICTプラットフォームができれば、それは日本の農業の強みになるでしょう。

また、日本には現場を知る数多くの農業技術者(都道府県の試験場や営農指導員など)が居ますが、高齢化とともに現場から居なくなってしまいます。そのなかでも技術を継承していくために、基礎的な農業情報や事例が簡単にデジタルで見られるようなICTプラットフォームの構築も急がれると、想いを語りました。

静岡県と香川県の協同が生み出すビジネス

パネルディスカッションでは、司会に神成氏、登壇者に末澤氏とAOI機構コーディネーターの加藤氏を迎え、AOIフォーラムの拠点である静岡県と、末澤氏の活動拠点でもある香川県との地域連携について、議論が交わされました。

末澤氏はまず、先の講演で話された「上位概念」の成功事例として、香川で「うどん巡礼」によって部分最適でなく、地域での産業が連携し、マーケット全体の拡大が起きたことに触れながら、こうした上位概念を、地域を超えた産品関係者間の協調で生み出していく必要性を話されました。

静岡県と香川県との連携に関しては、「静岡県と香川県が組まなければ実現できないビジネスを、戦略的かつ継続的に生み出して行く仕組みをAOI機構と共に作りたい」と意気込みを語りました。

オーチャードアンドテクノロジー代表取締役 末澤氏

神成氏からの「糖尿病患者数が多く健康寿命の短い香川県とAOI機構のある静岡県とで、健康長寿社会の実現につながる事業としてどのような連携ができるか」との投げかけに対し、加藤氏は事例として低カリウムレタスの栽培を挙げました。静岡県側施設(AOI-PARC)では、例えば栽培レシピの作成が、香川県側の植物工場(小豆島やさい工房~シーサイドファーム~)では、エネルギーと人的コストまでを計算できる応用が可能となっています。糖尿病患者が摂取を制限する必要があるカリウムを抑えたレタスの栽培レシピをAOI-PARCで作り、香川県で一般的には栽培が難しい大玉の低カリウムレタスを低コストで作ることができれば、というアイデアが示されました。

AOI機構コーディネーター 加藤氏

今後もAOIフォーラムは、ビジネスプラットフォームとして研究機関や県内外の生産者・民間事業者の連携を促すことで、地域間の協調を生み出していきます。

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