最新技術×プラットフォーム構築で創る、新たなビジネスモデル

AOIフォーラム第3回セミナー「食と健康における研究トレンドとビジネスチャンス」

written by AGRI JOURNAL編集部

2018.03.14

2018年2月22日(木)に、AOIフォーラム第3回セミナー「食と健康における研究トレンドとビジネスチャンス」が開催されました。食と健康分野に関する、今後の研究の方向性や競争戦略などを、理化学研究所の和田チームリーダーと、慶應義塾大学政策・メディア研究科の矢作准教授にお話しいただきました。研究の現場から見えてくるビジネスチャンスの可能性を探ります。

光センシング技術で健やかな生活を目指す

第一部では、AOI機構のシニアアドバイザーであり、理化学研究所光量子制御技術開発チームリーダーの和田智之氏より「健康計測および解析技術の進展」としてご講演いただきました。

AOI機構 シニアアドバイザー 兼 理化学研究所光量子制御技術開発チームリーダー 和田智之氏

私たちのからだには、血液や、リンパ液、呼気ガスなど、健康状態を調べるために使える分子がたくさんあります。光センシングを活用することで、これまでにない生体情報の取得が可能となるといいます。

例えば、理研独自の波長可変レーザーを用いた、呼気・皮膚ガス微量分析システムでは、呼気中の無数の揮発性有機化合物をバイオマーカーの定量によって診断することで、健康状態を知ることができます。

この技術は、人間だけでなく、呼吸する生物であれば応用することができます。例えば、農作物に応用し、作物の健康状態を知ることができれば、病害虫の予防にも役立てることが予測されます。

 

また、理研で取り組んでいる高齢者自立支援プログラムの概要が説明されました。このプログラムの目的は、高齢者個々人の脆弱化から要介護に至る予兆を予知・予防し健康力を最大化させることです。IT技術を用い大量の計測・データ解析・予知によるフィードバック(実証試験)を繰り返すことで、予防介入に力を入れ、予防技術の開発を進めていく意向です。これらの実現には、研究所だけでない企業や、地域とのコンソーシアムの形成による連携が不可欠であると語気を強めました。

 

さらに、理研と慶應の連携により開発した、植物栽培システムによる精密農業実現の可能性についても示唆しました。香川県と静岡県の連携により、互いの植物栽培システムが連携した実験農場での研究が今後始まります。

「我々は、光を利用したあらゆる生体計測とITを利用したデータ解析により、健やかな生活に貢献します」と、和田氏は意気込みを見せました。

チームの価値を最大化するプラットフォームの創造

第二部では、慶應義塾大学政策・メディア研究科准教授 矢作尚久氏より、「競争戦略から見る情報流通プラットフォームの重要性」についてご講演いただきました。

慶應義塾大学政策・メディア研究科准教授 矢作尚久氏

新薬や食品など新規事業開発はブームとなり、イノベーションを起こす商品開発は最早当たり前となってきています。しかし、顧客ニーズを満たすためには、個々への対応が必要不可欠です。矢作氏は、新薬開発の事例を紹介しながら、顧客ニーズを満たした商品開発をサポートする仕組みを考える重要性を提唱しました。

 

まず、商品開発の事例として新薬開発戦略の一つについて例示しました。新薬開発の商品化までたどり着く成功率は3万分の1と極めて小さいものであり、また開発には膨大な資金と時間を要します。そこで、新薬開発の戦略において、ヒトPOC(ヒトに対して有効性があることを実証すること)がされた候補品のみに絞り込み、厳選するためのスクリーニングのプロセスを構築したケースを紹介しました。つまり、このケースにおける競争優位性は、探索力と評価能力を併せ持つことが、最大の強みとなっていると説明しました。

続いて、サプライチェーン改革としてワクチン管理システムについて紹介しました。開発した新薬を患者に確実に届けるために、抜本的なスピードと品質向上、コスト削減のためには、サプライチェーンの再定義が必要です。物流と情報流通管理システムにより最適化した成功事例として、ワクチン管理システムの概要が紹介されました。ワクチン管理システムでは、情報連携システムでユーザー自身のワクチン接種記録と、医療機関の利用記録を連携し、ワクチンメーカーが最適なタイミングでワクチンを製造し、温度管理を最適化することを行うことで在庫の最小化と廃棄ゼロを実現できるケースを紹介しました。これらの新薬開発および、サプライチェーンの再定義は、食品分野での商品開発でも参考になると矢作氏は語ります。

 

続いて、売れる商品を作るための視点として、スターバックスを例に、ポジショニング(マーケティング戦略)とケイパビリティ(サービス/商品提供可能なマネージメント)の合わせ技に持続的利益をもたらす競争優位性があることを示しました。スターバックスは、コーヒ技術の創始者の技術と、サプライチェーンを行なったサービス展開が組み合わさって成功したことが知られています。

 

売れる商品を作るには、必ずしも製品やサービスの品質を上げれば売れるわけではなく、どのターゲットに、どのように見せていくかが重要なポイントとなります。

ここで、矢作氏はTEDでのデレク・シヴァーズの“How to start a movement?”の動画を提示しました。

 

この動画を見ると分かる通り、ムーブメントの運命を握るのはフォロワーであり、フォロワーの存在がリーダーを育て、やがて周囲を巻き込む力を発揮すると言えます。フォローワーを生み出すのに重要なのは、バリューです。バリューとは買い手が認知する価値であり、商品・サービスの継続的な体験満足度が、強烈なフォローワーを生み出しリピートを促すと提言しました。

 

今後、より一層、生産者は高機能な食品を開発することにコストをかけ、物流・管理・廃棄・在庫等のコストは削減する流れとなるでしょう。その流れの中で、多様化する個々のニーズに合わせ、イノベーション食材とバューチェーンの強化で競争力を付けていこうとの考えです。

「商流を理解しプラットフォームを構築することで、提供する価値を最大化していきたい」と、矢作氏はオープンインベーションの場に期待を寄せました。

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