「柔軟な発想で多様な人材獲得を」

AOIフォーラム第9回セミナー
スマート農業の取組と人手不足への対応について

written by 水口 みどり

2021.11.08

2021年10月12日、9回目となるAOIフォーラムセミナーが開催されました。今回は「スマート農業の取組と人手不足への対応について」がテーマ。ウェブセミナー形式で、およそ40人の会員が参加しました。セミナー前半は、農林水産省のスマート農業実証事業の成果について、参加した会員企業2社からの報告、また後半は、農業人材を採用し、育成するためのポイントについて株式会社東海道シグマキャリアコンサルタントの鈴木尚氏よりご講演いただきました。

挨拶に立った一般財団法人アグリオープンイノベーション機構岩城徹雄専務理事兼事務局長は、「国の実証事業の経験から農業現場の人材不足は大きな課題と感じています。また、フォーラム会員の方からも、人手不足でプロジェクトが組めないという声を聞きました。そこで今回は、人材に的を絞った勉強会を行うことになりました」と本セミナーの狙いを語りました。

一般財団法人アグリオープンイノベーション機構 岩城徹雄専務理事兼事務局長

セミナー冒頭で、同機構の山田クリス孝介プロデューサーより、農林水産省が主導するスマート農業の静岡県での取組について説明がありました。
山田氏によると、この事業はロボット、AI、IoTなどの先端技術を実装したスマート農業を加速させるもので、期間は2年間。導入による経営効果を明らかにしたそうです。今回は、2019年度に開始した同プロジェクトで、茶を対象とした事業に参画したカワサキ機工株式会社とNECソリューションイノベータ株式会社がそれぞれの取組と成果を発表することになりました。

一般財団法人アグリオープンイノベーション機構 山田クリス孝介プロデューサー

発表1「乗用型防除機自動操縦支援システムによる軽労化」 カワサキ機工株式会社

カワサキ機工株式会社 鈴木智久開発部次長

同社は、製茶工場の機械や茶園の管理機など、茶生産に関わる機械の製造販売をしています。今回は、茶園に農薬を散布する乗用型防除機自動操縦支援システムによる軽労化について発表がありました。標準仕様の防除機に新たに

  1. 散布量の自動調整機能
  2. 散布ブーム高さの自動調整
  3. 前後進自動操舵
  4. 防除作業履歴の自動記録機能

の4つの機能を取り付け実証試験を行いました。
実証ではスマート防除機を農家の方に約1年半使って頂き、継続的にデータを取り、使用感や操作性についてアドバイスをもらったそうです。成果としては、従来型と今回の改良型では、同一圃場で散布作業を行った場合、改良型の方が作業時間で12%削減、また、10アールあたりの農業散布量も目標値に近い液量が散布できたという結果が出ました。
スマート農業技術を利用した新サービス「カワサキスマートコネクト」の紹介もありました。これは同社が製造販売する茶園機器などのデータをクラウドにアップするもので、第一弾として2020年8月より農業日誌「アグリオン」とのデータ連携サービスを開始したそうです。
最後に、鈴木次長は「スマート農業は、次世代を担う若手生産農家の興味が高いと感じています。クラウドを利用した作業管理履歴記録は、当初生産者向けを考えていましたが、茶商様から“機械による正確なトレーサビリティデータ”はお茶の商品価値を上げるのに有効という声を聞けたのは新たな発見でした」と締めくくりました。

発表2「デジタル化技術を活用したGAP」 NECソリューションイノベータ株式会社

NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション推進本部村田淳夫主席プロフェッショナル

GAPとは農業生産工程管理のこと。持続可能な農業をすることができ、結果として安全な農業生産品を提供できます。また、課題などを見つけ継続的に改善していくことで、より良い農業経営に役立てることができるものです。同社は、静岡県スマート農業実証プロジェクトで、GAPの実施において「手作業による紙管理から、デジタル化技術を活用したデータ管理」にすることで作業時間削減を目指しました。
今回の実証は3つのタイプの農業法人で行いました(①個別認証、②個人農家が集まった団体認証法人、③社員を雇用した自社農園、または、契約農家をまとめて団体認証を行っている3法人)。
個別認証A法人は、日ごろ記録し保存している資料を自己点検し、経営的な視点で見直し、集中準備して第三者認証機関の審査を受けています。GAP支援ソフトを導入することで、この、集中期の資料の整理を省力化し、審査時にすぐに必要な資料を見せられるようにしました。結果として17種類あった手作業の書類のうち12種類を電子化。年間50時間かかっていた作業時間を、普段期で47%削減、集中準備期で25%削減することに成功しました。「効率化した時間は経営課題の解決など、より重要なミッションに当ててもらえるようになります」と村田主席プロフェッショナルはその効果を語りました。

講演 「農業人材の採用・育成について」 株式会社東海道シグマ キャリアコンサルタント 鈴木尚氏

株式会社東海道シグマ キャリアコンサルタント 鈴木尚氏

事業の在り方を明確にしていますか?

講師の鈴木尚氏は開口一番、「農業とは?」という問いを投げかけます。「作物を富に換え、生計を立てて初めて農業になるのです。しかし、大切な作物を自分の売りたい値段で売っていますか?生まれた富を次の投資にどう回していますか?あるいは、他から資金を調達するのですか?-このように、農業という“事業”の在り方を明確にして若者に伝えないと心に響きません」と鈴木氏は言い切ります。
採用時に志望動機や自己PRを求めるのと同様、求人する側も、ビジネスモデルや企業理念を明示してほしい、事業活動の動機やコアとなる技術の説明をしてほしいと言います。
求める人材を明確にする必要性にも言及しました。何をやってもらいたいのか、相手に求めるスキルは何か、どんな人柄がほしいのか、また、入社後のキャリアパスを示すことが重要と言います。つまり、事業の在り方と、求める人材、採用育成は「三位一体」であるべきなのです。
さらに、これからの採用は、「人間をマシーン化する(指示に従い、ハードワークに耐える)のでなく、夢をカタチにする力を育てる(トランスフォーメーションを起こす)こと」と鈴木氏。量的生産のハードワークでは富はやって来ない、と言います。
その上で、今はある意味チャンス、とも。コロナをきっかけに、今までの当たり前が当たり前でなくなってしまったからこそ、農業の素晴らしさをPRするタイミングなのです。
スマート農業の導入で、経営の効率化、収量アップ、SDGsや二酸化炭素削減に寄与するなど、今や農業の未来はとても明るくなっています。「三位一体」のすべてを一挙に変える根本的変化ができる時です。まして、「持続可能性」は今若者に一番響く言葉。これを逃す手はありません、というアドバイスもありました。

仕事から考える、多様な働き方を認める意識改革を

「実は、就職の状況というのは30年間変わっていません」と鈴木氏。大卒は3年で32.8%が会社を辞めているそうです。つまり、30%の有能な若者が就職後、もう一度考え直して就活をしているのです。しかも、この「3年離職」の数字は30年間変わっていないというから驚きです。既存の就活プラットフォームでは解決できないのですが、一方でそれに乗っていかないと就職は難しいという状況がずっと続いているのです。
「募集しても応募がない」というのは、募集する側が無意識のうちに「まじめで元気な長時間労働のできる人」を採用したいと考えているからです。つまり、求人市場にほとんどいない人を求めているため、応募がないという結果になるのです。
鈴木氏は、従来の採用設計を見直し、「人から入るのではなく、“仕事から入る”」ようにすることで、それぞれの働き方で働いてもらうことが可能になるのではないでしょうか、と言います。

最後に、「働く人の幸せの7因子(※)」という慶応大の先生の研究が紹介されました。
(※)慶應義塾大学前野隆司教授「幸福経営学」より

  1. 自己成長
  2. リフレッシュ
  3. チームワーク
  4. 役割認識
  5. 他者承認
  6. 他者貢献
  7. 自己裁量

「これを見ると、農業はアピールする部分がたくさんあると思います。今後は、農業が若者の選択肢に入ってくると思いますし、そこにスマート農業を組み合わせれば可能性がどんどん出てくると感じます」と鈴木氏。ぜひ、農業の在り方、求める人材、育成方針を明確にしてアピールをしてほしい、と企業への力強いエールで講演を締めくくりました。

講演後は、AOIフォーラムの会員企業であり、人材紹介・派遣サービスを行う株式会社パソナ農援隊、株式会社アルプスアグリキャリア、株式会社マイナビから、それぞれ農業人材のサービスの紹介がありました。
セミナーの最後は、岩城専務理事から「前半のスマート農業では単に生産性を上げるだけでなく、販路拡大の取組につながるというお話がありました。農業人材の募集には来てほしい人に何をしてほしいか、キャリアパスの明確化など、具体的なポイントを教えていただきました」との総括がありました。今後もAOI機構は、会員の皆さんの事業に役立つセミナーを開催していきます。

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