ここまでできる!スマート農業

〜第3回しずぎん@gribizレポート〜

written by 小高 朋子

2019.11.19

令和元年11月1日、AOI-PARCにてAOIフォーラム会員である静岡銀行と共催で「しずぎん@gribiz」が開催されました。
第3回目は「ここまでできる!スマート農業」をテーマに、NECソリューションイノベータ株式会社主席アドバイザー・慶應義塾大学 特任教授の島津秀雄氏に最新のスマート農業事情についてご講演いただくとともに、AOI-PARCの視察も行われました。

日本の農業の現状とスマート農業に向けての課題

「農業から新しい価値の創造を目指す」AOIプロジェクト。AOI-PARCは県内外の研究機関や企業等がお互いの技術やアイデアを持ち寄り、共創して農業の生産性革新とビジネスに取り組むための施設であり、農業のスマート化の中核としての役割も担っています。
島津氏は、アグリオープンイノベーション機構(AOI機構)のシニアアドバイザーとしてもご活躍をいただいております。この度は、国内のスマート農業を牽引する島津氏より「日本の農業の現状とスマート農業化にむけての課題」と題してご講演いただきました。

日本と世界が目指すスマート農業の違い

島津秀雄氏(NECソリューションイノベータ株式会社主席アドバイザー・慶應義塾大学特任教授)

日本の農業は、さまざまな問題を抱えています。農業従事者は2000年に175万人だったのが2018年で半減。平均年齢は66.8歳(2018年)で、10年後には70歳を超えると予想されています。50歳未満の現役25万人と新規就農者15万人で10年後を支えなければなりません。つまり、数倍の生産性向上が必要となってきます。
農業の成長産業化を実現するためには、ロボット・AI・IoT等の最先端技術を活用した「スマート農業」の社会実装を図ることが急務です。現在、農林水産省が委託するスマート農業実証プロジェクトは全国69カ所。静岡県ではAOI機構も参加する、お茶のプロジェクトが進められています。農林水産省では、さらに事例を増やしていく意向があり、来年度の予算概算要求の概要を発表しています。興味がある農業関係者は、すぐにでも計画的に考え、進めていくべきでしょう。

日本が目指すスマート農業と世界のスマート農業には、大きな違いがあります。
農業におけるイノベーションには、肥料・農薬・F1種子・遺伝子組み換えなど多くの技術革新があります。F1種子は、異なる系統や品種の親を交配して得られる優良品種です。GMO(遺伝子組換え)は、2017年には24カ国で栽培されていますし、除草剤Roundupや耐性種子Roundup Readyの登場などもあります。
国別の特徴としては、アメリカでは農作物を「資源」として捉える傾向にあります。典型的な農家の耕地面積は700 haと大規模で、農業従事者率は人口の1.6%です。ヘリコプターなどでタネを蒔き、並列したトラクターで収穫するなどダイナミックです。
オランダでは農作物を「工業製品」と捉えます。ぶどうは房でなく、バラしてパッキングしてはじめて商品となるのです。そのため、自動収穫や自動出荷、環境制御装置などの技術が進んでいます。
EU(オランダ以外)では農作物を「マルチビジネス」と捉えます。安価な作物が北アフリカや東欧から移入するため、作物そのものではなく加工食品にして高付加価値をつけるのです。フランスの40%、イタリアの60%の農家の経営形態が、アグリツーリズムや加工食品を製造するなどのマルチビジネスを行なっています。
スマート農業が目指すものは、国によって大きく異なるのです。それでは、日本はどうでしょうか?

日本におけるスマート農業の可能性

日本における農業の経営体数の構成割合は、稲作50.3%、野菜9.6%、果樹9.9%、その他9.7%、複合経営20.5%(2015年)です。
土地利用型農業である水田の農地集約は進行中で、稲作経営体113万戸の1.8%である10ha以上の経営体2万戸が全体の約1/4を管理しています。この場合、ICTに期待するのは「省力化」です。
一方、労働集約型農業である野菜、花、果物のように、作業の大部分で機械化が困難な作物はIT化が難しく、一足飛びの自動化は望めません。その代わりに、高付加価値を狙うことが可能でしょう。
果樹では房ごとにICタグを付けて管理することで高糖度を保証するほか、多品種作物の出荷ピークを調整することで買い手にとって高付加価値を与えます。また、徳島県上勝町の「葉っぱビジネス(いろどり)」のように産地そのものを付加価値化させたり、棚田をキラーコンテンツに地域が持つ特徴を付加価値化し地域おこしに取り組む事例などもあります。
さて、近年、ICTは大きく変化しています。20数年前にはなかったウェブサイト、SNS、インターネット通話など新たなメディアが登場しています。しかも、ほとんどが無料ですからスマート化を目指すのであれば、まずはこれらを使用することからはじめることができます。
ICTを利用することで、現場の生産性や付加価値の向上が期待できます。土地型利用農業ではドローンを使った広域農地の観察や、選果場では高品質果実の選別など、細かいデータをひと目でわかりやすく表示することも可能です。

世界から見たフードバリューチェーン

世界の食市場の規模は倍増しています。特にアジア全体の市場規模は、2009年の82兆円から2020年には229兆円へと約3倍増と予測されています。農産物のグローバル市場では、最適地で生産から調達までを行い、最適地で販売・消費するGFVC(グローバルフードバリューチェーン)が主流です。多様性を限りなく均一化し、市場をボーダーレス化する考え方です。
例えば、ゼスプリキウイのように、産地の特徴は出さずに周年・同金額で供給することでブランド価値を上げます。一方で、日本の果物は旬の時期だけ登場し、産地間で競い合いを行なっています。私たちが、世界市場への参入を考えるならば、日本農業をGFVCの川上生産段階に位置づけることが必要となるでしょう。
2017年には、世界的企業であるAmazon社がWhole Foods Marketを買収しました。このことは「誰が、何を、いつ食べたか」というグルメ市場のデータをAmazon社が掌握できることを意味します。市場は世界に広がっています。
日本にはたくさんの素晴らしい生産者がおり、国内でもすでに高価格での取引が行われています。そのような高級品を輸出したならば、さらなる市場価値が生まれ「超高級品」として販売できるかもしれません。
増加傾向にある海外からの観光客を惹きつける産地づくりも大切でしょう。
また、食に関連するさまざまなトピックがあります。2019年10月には遺伝子編集食品が日本で解禁になりました。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によると、2030年から2050年までに気温は1.5℃上昇し、農業や水産業に大きな影響を及ぼす可能性があります。
しかし、ダイナミックな変動があるからこそ、チャンスがあるとも言えます。短期・中期・長期での対策をしっかりと考え、何をどう組み合わせながらスマート農業を実現させていくかを共に考えていきましょう。(島津氏)

島津氏の講演のあとは、参加者の皆さまとAOI-PARC内にある研究用温室の視察も行われ、静岡県農林技術研究所上席研究員の貫井氏より研究の概要が説明されました。

貫井秀樹氏(静岡県農林技術研究所次世代栽培システム科上席研究員)

同施設は2019年7月に完成し、自然光条件下で温度・湿度・日射量・CO2濃度・給液濃度を統合制御することが可能です。
現在は、トマトとイチゴの栽培試験が進められています。
各種センサーやIoT技術の発達により、ハウス内の環境データは、常にさまざまなセンサーやモニターで確認できるようになっています。現在のところ、それに加えて足りないものは植物のデータです。そこで、現時点での植物の生育状況を、自動で評価するセンサーを開発・設置し研究が進められています。
「環境情報、生育情報、それらを組み合わせた栽培管理の指針を作っていきたいと考えています。栽培技術のアドバイスなどを、出来るだけ早く皆さまのお手元に届けられるようにしたい」と、貫井氏は今後の展望も語りました。
説明のあとは参加者の皆さまからのさまざまなご質問をいただきながら、視察が終了いたしました。□

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