個性を見いだし 今を駆け抜ける 挑戦者たち

~AOIフォーラム 第4回セミナー~

written by 大谷敦子

2018.11.30

AOIフォーラム第4回セミナーが2018年10月23日、プラサヴェルデ(沼津市)で開かれました。「会員の成功事例と課題の共有」と題して、すでに農業ビジネスで成功を収めている同フォーラム会員3人によるプレゼンテーションがありました。今年度初めてのセミナーに、農業への新規参入や事業拡大を考えている会員ら約40人が参加し、今後のビジネス展開へのヒントを得ることができました。

成功するには理由がある

会員同士の交流を深めて、新たなビジネスを生み出すことを目的に開催している同セミナー。この日、完全閉鎖型植物工場で葉物野菜を製造・加工・販売している株式会社イノベタス、健康食品製造業を主な事業に新芽野菜の高機能性素材の研究開発に特化している株式会社不二工芸製作所、静岡県西部でサツマイモや茶などの野菜を生産・販売する株式会社まるやま農場から、それぞれ農業に取り組んだ経緯や事業を確立するまでの苦労、今の課題などについて発表していただきました。

やさしい野菜工場を目指して

株式会社イノベタス取締役 企画・管理部長 和田仁(わだ・ひとし)氏

ラテン語で創意工夫、革新という意味をもつイノベタス(富士市)は、親会社の紙パルプ工場で老朽化した機械更新の代わりに、新会社として2014年3月設立。「やさしい野菜工場」をミッションに、1年後、世界最先端・最大級の完全閉鎖型植物工場「富士ファーム」を稼働させました。現在、富士山の良質で豊富な水を利用した水耕栽培で、フリルレタスやグリーンリーフ、レッドレタスなどを栽培しています。農薬不使用で洗わずして食べることのできるレタスを1日に12,000株出荷しており、一工場として日本でもトップ5に入る生産実績を誇っています。

LEDライトと多段棚を活用することで、栽培日数を短縮し、栽培面積あたりの収穫量を上げて、効率のいい栽培を実現しています。35日を目安に、平均で85~100gのレタスをつくることを目標にしています。40日かけて大きな100gのものをつくるよりも、棚の回転率を重視することで、収益を確保しています。

工場内では、最先端テクノロジー・ICT管理システムを導入して、作物の地上環境と地下環境に分けて、データを管理し、棚ごとに生育環境をモニタリングしています。地上環境では、CO2、温度、湿度を一定の値で保つようにしています。成長に欠かせない風も再現しています。光の照射時間は長く当てれば良いわけではなく、成長の時期に合わせて調整しています。地下環境では、水と肥料(混合肥料・単肥)を管理し、理想的な形で成長させるための最適な肥料濃度をコントロールすることが成功のポイントになります。

衛生管理については、食品加工業と同じHACCP(ハサップ)の衛生管理基準を目標にしています。O157や大腸菌などに関しては、外から持ち込まなければ、中で自然発生する菌ではないので、従業員には健康・衛生管理を徹底しています。

課題の一つは安定販売先の確保です。95%は首都圏等のスーパーや小売店向けに販売していますが、夏場は露地物のレタスが1玉100円に対し、1袋80gのレタスが198円では価格で負けてしまいます。安定した品質、取扱量を望む飲食店やカット野菜の加工業者に対して販売チャネルを拡大して、年間を通して販売の平準化を図る必要があります。最近は、スーパーやコンビニでカット野菜コーナーが設けられていることもあり、プライベートブランド販売も検討しています。

もう一つの課題は、生産技術と販売のバランスです。いいものを作れば売れるのではなく、戦略をもった商品開発、例えば機能性野菜の研究などが必要です。生産性向上を図るために、AOIフォーラムと連携しているほか、NPO法人植物工場研究会(事務局:千葉大)にも参画しています。販売の方では、露地物レタスより栄養価が高いことや衛生面での良さをPRする商品ブランディングが大切だと考えています。

農業は生産から進化した研究開発へ

株式会社不二工芸製作所代表取締役 前島正容(まえじま・まさたか)氏

創業72年の不二工芸製作所(富士宮市)は、健康食品の小分け包装を主力事業に、水耕栽培による新芽野菜の生産とそれにかかわる研究開発、高糖度のミニトマトの栽培を展開しています。

創業者の父は木工業(下駄加工)を営んでいましたが、私は1978年に事業継承したのを機に、カシオ計算機の下請けとしてデジタル時計の組み立て製造を始めます。2001年、急激な円高の影響による生産拠点の海外移転を先読みし、周囲の反対を説得し、健康食品製造事業に事業転換しました。

農業事業は、すでに1996年よりアグリ事業部を立ち上げて(後に「不二バイオファーム」に改称)、水耕栽培に参入しており、豆苗などの新芽野菜の栽培を始めていました。

しかし、豆苗の出荷を始めてわずか3週間後、大ピンチが起きます。「O-157カイワレ事件」※です。病原性大腸菌O-157の原因にカイワレが疑われ、国の対応不備の濡れ衣により多くの水耕栽培の業者が撤退に追い込まれました。

1996年8月、大阪府堺市で病原性大腸菌O-157による集団食中毒事件で、厚生省が「カイワレが原因となった可能性は否定できない」と発表し、カイワレ大根への風評被害が広がった。

事件から10年を経て最高裁でカイワレがO-157の原因食材ではない、という無実が証明されたのですが、その間の風評被害による大打撃で野菜全体、特に水耕栽培事業には致命的となり、事業全体の見直しを迫られました。

そこで、新たな新芽野菜として「ソバの芽」を開発。健康食品の原料探索を視野に高機能性素材の研究開発に方向転換しました。ソバの芽は、種子を発芽させるとピンク色(アントシアニン)の茎となり、新芽野菜のみが持つ稀有な高い栄養価を持つ特徴があります。この開発を機に、試行錯誤していたころ、行政が研究開発について積極的に支援する「産学連携」が推進されたことは、弊社にとり大変な追い風となりました。

新芽野菜の研究においてソバの芽を選択した理由は①水耕栽培による省力化②無農薬栽培で安全③施設農業で安定生産が見込める④新芽野菜は稀有な栄養素が高い⑤人による食経験が長い⑥相対的な付加価値を高めることで差別化できる、ということからです。

更に研究を深めていったところ、ソバの芽からより付加価値を高めた「発芽そば発酵エキス」の開発に成功。これは、元来ソバの芽が持つ植物性乳酸菌により発酵させた製品で、開発過程において偶然生み出されたものでした。試験段階において、双子のある女子中学生から「発芽そば発酵エキスの摂取で気管支喘息(ぜんそく)が治癒した」との報告が届きます。そこで共同研究者の医師から、エビデンスや、安全性の確認などの実証についてアドバイスされ、信州大学を皮切りに静岡大学、静岡県立大学において、研究を始めました。加えて磐田市の食品農医薬品安全性評価センターで、安全性を確認し、さらに発酵の研究者がいる沼津工業技術支援センターの支援を受け、高血圧抑制、アレルギー疾患の効果確認などをはじめとした、さまざまな成果を確認・実証してきました。

そうした中、泌尿器関連の難病とアレルギーの因果間関係から患者11人に治験を行い、9人の効果を確認し、9年前に学会で発表しました。さらに同様の疾患者に対し、昨年、県の支援を受けて、静岡県立大学の山田静雄教授を中心に、20人の患者で臨床試験が実施されました。そして、再度の改善効果を確認するとともに、この報告を2019年4月に学会で成果報告および論文発表をする予定になっております。これは産学連携で培った研究が、世界的にも不治と言われる難病で苦しむ患者に、朗報を届けることに繋がると期待されております。

弊社の農業は、一般的な農業生産を進化させることにより差別化し、その付加価値を高めるための研究開発に特化している特徴をもっています。昨年、AOIフォーラムに参加させていただきましたが、さまざまな視点や新たなステージから農業をとらえるこうした組織は初めてであり、弊社の研究をさらに深化させるための支援をいただける絶好の機会だと、期待をしているところです。

農業経営は出口の確保から

株式会社まるやま農場ファームプロジェクト部長 岩澤啓之(いわさわ・ひろゆき)氏

掛川市の遠州灘沿いに広がるサツマイモと葉ネギの畑。株式会社まるやま農場が、もともと耕作放棄地だった農地を有効活用することから始まりました。サツマイモ、葉ネギのほか、お茶、イチゴの4品目を生産しており、作物ごとに戦略をもって展開しています。

まるやま農場の強みは、グループ関連企業の存在です。お茶は親会社の丸山製茶で販売し、小売店や通信販売の会社がサツマイモを加工した干しイモとイチゴの販売先になっています。ほぼ全量をグループ内の販売網を通して売り切ることができます。また、通信販売会社において、ネットでも販売しています。ふるさと納税の返礼品として干しイモを出品しており、掛川市の返礼品の中で1位になりました。

若い人材が地域になかなかいないという現実があるので、労働力の確保として、高齢者、障害者を活用しています。関連会社の就労支援B型事業所から、障害者が毎日農場で作業しています。必要に応じて、シルバー人材センターにお願いすることもあります。葉ネギの播種、除草などの作業を担っていて、なくてはならない労働力となっています。

昨年度、高齢者や障害者と一緒に農業をしていることが評価され、6次産業化アワード優良事例表彰で、奨励賞「地域発展貢献賞」を受賞しました。今年3月には、GLOBAL G.A.P.(グローバルギャップ)認証※をサツマイモ・ネギ・イチゴで取得しました。対外的な証明を得ることで、2020年の東京オリンピックの選手村への食材提供や、海外展開を視野にいれています。

G.A.P.(ギャップ) とは、GOOD(適正な)、AGRICULTURAL(農業の)、PRACTICES(実践)のこと。GLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)認証とは、それを証明する国際基準の仕組みをいう。

わが社では女性2人がチームリーダーとして活躍しています。30代の社員はイチゴの責任者をしています。以前は葉ネギの責任者だった彼女が年間5,000万円の売り上げを達成したことで、希望していたイチゴの栽培を許可しました。もう一人は県立農林大学校を卒業した20代の社員で、干しイモの責任者として売り上げアップに貢献しています。社員のモチベーションになるよう、希望を叶える形で、新しい品目を増やしていくことを考えています。

地域の企業と農業を活性化していきたいとの思いもあり、AOIフォーラムに参加しました。連携事例として、菊川市にある株式会社エムスクエア・ラボが運営する物流システム「やさいバス」を使って、農産物を当日出荷しています。

葉ネギ事業は栽培面積5ヘクタール、年間出荷量は180トンと主力製品です。特徴は業務用として通年安定出荷が毎日できていることです。取引先は外食産業チェーンなどで、AOIフォーラムで出会ったエムスクエア・ラボや丸山製茶につないでもらい、出口を確保できているのが強みだと思います。しかし、いまは先日の台風の影響で2カ月出荷が止まっている状況で、一番苦労しています。

イチゴは「寒蜜いちご」という商標をとり、冷気にさらすことで糖度をあげる“寒じめ栽培”で育てています。コストがかかる栽培方法ではありますが、ブランディングしながら、値段を下げずに買ってくれるところを狙っていきます。寒蜜いちごを使ったパフェが人気になっているほか、有名洋菓子店でいちごタルトとして採用してもらっています。

今後の課題ですが、サツマイモについては、農薬を使わない栽培方法を確立していくことです。葉ネギ事業の一番の課題は、先日の台風で発生した塩害被害です。今後は収量や品質の安定をどうしていくか、経営上のリスクヘッジをどのようにしていくかを研究していきたいです。イチゴ事業は立ち上げ間もないので、まずはブランドを確立していくことが最大の課題です。本業に近い茶業は、後継者問題で、耕作放棄地が増えているのが現状です。法人として、事業維持することができましたので、これからも農地を確保して、拡大していく予定です。

従来の農業の考え方にとらわれず、新しい技術・経営手法を取り入れていきたいです。AOIフォーラムを通して、みなさんと連携していけたらと思っています。

会場の模様

photo by 水口みどり

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