静岡産オリーブで地域の活性化を目指す
―――はじめに、プロジェクトの概要を教えていただけますか?
株式会社CREA FARM 代表取締役 西村やす子氏
西村:新しい農業ビジネスモデルで地域の活性化を目的に、3年前に株式会社CREA FARMを設立しました。主な事業は、大きく分けて2つ。オリーブの産地化事業と6次産業化事業です。生産から販売・技術研究・品質管理・ブランディング・マーケティングまで強力なバリューチェーンを構成します。
現在、当社では13ヘクタールの圃場で約4,500本のオリーブ苗木を栽培しています。3年後には、オリーブ果実で100トンの収穫が予想されます。しかし、エキストラバージンオイルの製造過程で生じる搾り残渣は収穫ベースで90%にものぼり、それらは産業廃棄物として処理せざるを得ません。
そこで、廃棄される静岡産オリーブの「搾り残渣」や「葉」に含まれる有効成分の分離精製手法の確立と、安全性と有効性を評価し活用することを考えました。これらの抽出エキス等を用い、アンチエイジング効果のある化粧品や、健康食品の開発・事業化による「静岡産オリーブ商品」のブランドを構築することで、健康長寿県「静岡」への貢献を目指します。
静岡駅北口から徒歩3分ほどにあるアンテナショップ『クレアテーブル』。 静岡県産エキストラオリーブオイルをはじめ、常時20種類以上のオリーブオイルが揃う。
―――コンソーシアムが立ち上がった経緯を教えてください。
西村:当初、AOIフォーラムのサポート支援は農業生産に限ったものだと思っていました。しかし、農業ビジネスをトータルサポートしてくれるとのことで、今回のメンバーをご紹介いただくことができました。
AOI機構 コーディネーター 内藤正英氏
内藤:静岡県内には、様々な分野に特化した優良企業があります。その中で、西村さんの目指すものを共感・共有できる会社を探しました。その際に大切にしたことは、顔が見える関係性であることです。最後まで、責任をもって事業に取り組んでくださる信頼感が重要な要素でした。
静岡県立大学大学院薬食研究センター長 薬学博士 山田静雄特任教授
山田:私は薬学研究を専門に、これまでにも柑橘類の搾り残渣の健康に資する機能性などを研究してきた経験があります。
日本には最先端の治療薬が揃っていますが、患者さんの満足度は低い傾向にあります。そこで近年、予防医学の重要性や、補完代替医療と呼ばれる健康食品・サプリメント、アロマや鍼灸などが注目されはじめています。オリーブの搾り残渣などの未利用資源から、健康に寄与する成分を抽出し有効活用しようとする事業内容に共感を得ました。また本事業には、健康長寿支援だけでなく、耕作放棄地対策への可能性も感じています。
株式会社不二工芸製作所 研究室研究員 前島真由美氏
前島:弊社では、健康創造に貢献すべく、スプラウト野菜や完熟トマト、発酵食品(サプリメント)などの研究・製造をしています。これまでに、そばの芽を植物性乳酸菌で発酵した健康食品原料「発芽そば発酵エキス」の研究・開発などを行ってきました。そのため以前より、山田教授とは機能性分析の依頼をするなどの繋がりがありました。
内藤:それから化粧品メーカーとして、エフシー中央薬理研究所株式会社にも参画いただいております。
コンソーシアムを組むことで実現した一貫体制
―――本プロジェクトにおいて、各事業者の役割を教えてください。
西村:オリーブ栽培から原料供給、商品化・マーケティング・販売までを行い、全体を統括します。各研究の評価やサプリメント・化粧品製造に向けて、安全性・有用性結果に対する戦略策定なども行います。
山田:私は機能性成分の分析、含有画分(抽出エキス)を分離精製する技術の開発、抽出エキスの機能性や安全性を調べ、健康増進に資する食品やサプリメントの開発を目指します。
前島:私たち不二工芸製作所は、抽出エキスを活用したサプリメントの原料製造法の確立、サプリメントの製造を担います。オリーブ残渣の性状により、適したサプリメントの形状を判断します。
また、マーケティング戦略に関わる調査と戦略策定も重要です。今回はサプリメント単体としてではなく、化粧品と合わせたブランドイメージを確立する必要があります。
内藤:エフシー中央薬理研究所株式会社には、抽出エキスを活用した化粧品の開発・製造、マーケティング戦略にかかわる調査等をお願いしています。
西村:商品開発では、マーケットを意識し時代が求めるモノを創ることが大切です。コンソーシアムを組むことで、固定概念にとらわれることなくフレキシブルな対応ができると考えています。
内藤:事業計画には、研究開発だけでなく、マーケティングに関わる内容もしっかり盛り込んでいるのも特徴です。
―――今後の意気込みや、目指す未来などがあればお願いします。
内藤:オープンイノベーションの場として、より多くの企業とのコラボレーションをプロデュースしていきたいと考えています。例えば、トマトジュースにオリーブオイルを加え温めることでリコピンの吸収率は数倍にもなると言われています。本事業だけで終わりにするのでなく、より広い視点をもって行動していきたいと考えています。
山田:研究とは、研究室の中で終わりにしては意味がありません。実際の企業の方々と組むことで、多くの人の健康に役立つ製品の開発などの可能性が大きく拡がることを実感しています。内藤さんのおっしゃるように、食品素材の組み合わせ次第でさらに大きな健康効果を生み出すことが期待されます。これからも、多くの人々の健康に役立つ研究をしていきたいと思います。
前島:コンソーシアムを組むことで、研究から販売までの一貫した体制が整いました。今後はエビデンスを基に、さらに使用実感が伴う商品を開発していきたいと思います。
西村:地方の農業が抱える問題には、価値づくりと販路開拓への取り組みが不十分な点があります。本事業では、それらに取り組むことで収益をあげるモデルを確立したいと思います。エビデンスに基づく商品開発と、マーケティングリサーチにより市場で正当に評価されることは、地域振興に役立つと考えています。私たちが成功例となることで、次の新しい事業へと繋がることを願っています。