AOIフォーラムの活動と取り組み
一般財団法人アグリオープンイノベーション機構 岩城徹雄専務理事兼事務局長
はじめに、AOI機構岩崎専務理事兼事務局長より、AOIフォーラムの取り組みについて報告がありました。
AOIプロジェクトは、あらゆる分野の人たちがシーズ・ニーズなどを出し合い、価値のあるものをつくろうという意志のもと、農業の生産性向上と関連産業のビジネス化をオープンイノベーションで進める静岡県のプロジェクトです。その推進役と言えるAOIフォーラムは、現在、一般会員198社、サポーター会員48機関の計246会員が所属しています(R3.7.1現在)。その4年間の活動の中から13の成果が事業化できました。「個々の商品やビジネスモデルも本フォーラムの成果ですが、農業の生産現場でスマート農業が広まってきたこと、他分野との協働が進んできたことも成果と感じています」と岩城氏。
こうした事業化の成果を単発で終わらせず、農業現場に定着させることも目指しており、現在、ソフトケールと高糖度トマトの生産については農業生産者と実証事業が進んでいます。さらに、研究開発に使える圃場をスムーズに提供できるよう、静岡県が県東部6JAと提携し、86,660.7アールの圃場をリスト化したとのことでした。AOI機構ではこのリストを引き継いでマッチングを進めていきたいとのことです。
国の研究開発プロジェクトの報告もありました。食のサスティナビリティを推進するため農作物のスマートフードチェーン構築を進める「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」、カメラやドローンを活用したセンシングなどを行う「スマート農業関連実証事業」などです。また、官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)として、理化学研究所と協力した種苗開発を支えるスマート育種システムの開発、微生物の活動をフルに活用し完全資源循環型の食糧生産システムを開発するムーンショット型農林水産研究開発事業も概要が説明されました。AOIフォーラムを運営するAOI機構がこれらの国家プロジェクトに参画することで、「AOIフォーラム会員にも協力いただけることが出てくるのではないでしょうか」と岩城氏。
この他、フォーラムのイベントや、AOI機構が行っている人材育成事業(沼津市と共催での小学生向け食育事業、高校生による先端農業の記事化)などの紹介もありました。
最後に、岩城氏は「オープンイノベーションの場としてのフォーラムですので、会員同士が直接意見交換できる場を設けたいと考えています。会員の皆さんの発表・商談会を今年度も多く開催したいと思っています」と抱負を語りました。
会員事例発表-研究成果続々と
株式会社ファームシップ 事業開発プロジェクト 岡本元様
株式会社ファームシップからは、コンテナ型植物工場「BlockFARM」を使った葉物野菜の生産および海外展開の発表がありました。
この事業は、静岡県の「オープンイノベーション型事業化促進事業」を利用し、同社を代表機関に、石井育種場、AOI機構、不二ライトメタルでコンソーシアムを構築し実施しました。葉物野菜の栽培レシピについて、静岡県農林技術研究所に委託研究をお願いし、同時にシンガポールではマーケティングをしながら品種の検討を行いました。また、AOI機構が現地法人とのマッチング支援などを行ったとのことです。
残念ながら、新型コロナウイルスの影響でシンガポールでの展開は保留となっているそうですが、富士市の研究施設に設置した16台の「BlockFarm」を使い、沼津市にオープンを予定している大規模植物工場に向けて研究、実証を行うとのことで、今後の展開が期待できます。
ベルファーム株式会社 酒井浩伸取締役営業部長
ベルファーム株式会社は、トマトの低段密植栽培について発表を行いました。低段密植栽培法は、通常1年をかけ30段前後に育てるトマトを、1〜3段におさえ、高密植で、年複数回栽培する方法です。
低段栽培は、圃場での栽培期間が短く農薬散布回数が少なくて済むこと、簡易な環境制御で済むため設備費用が抑えられること、マニュアルが単純化しやすく異業種や新規の参入がしやすいことなどがメリットです。さらに、同社は紫外線を照射することで農薬を使わずうどん粉病を予防する手法も検討しました。
こうした成果を活用し、静岡県農林技術研究所他とコンソーシアムを構築して、農水省の「革新的技術開発緊急的見解事業」に応募しました。この事業では、育苗技術、圃場環境制御技術、超低農薬栽培技術の3つのパートで研究を行い、トマトプラグ苗を側面接触定植することで活着を改善し、トマトの着果率と糖度を上げることに成功しました。また、紫外線照射により、1度もカビ類に対し、農薬を散布せず収穫が可能になったそうです。
株式会社増田採種場 増田秀美専務取締役
株式会社増田採種場はAOIプロジェクトの成果第1号となるソフトケールGABAを開発した企業です。今回は、「機械収穫用キャベツ品種の育成」についての発表を行いました。
普段スーパーなどで見かけるキャベツのほとんどは平らな形をしています。しかし、機械収穫には向いていません。また、芯の部分が多いため、加工した際の歩留まりを上げることが課題でした。
そこで、同社は「はるおこ」という従来品種の改良にチャレンジ。ヤンマーアグリジャパンの協力のもと、2020年に収穫デモンストレーションを行い、ボール状のもので、地表から浮いており、さらに、芯の部分が少なく業務用にカットしたときに歩留まりが良い品種を作り上げました。
今後は、10アールで10トンが収穫できること、倒伏が少なく、密植でき扁円球であること、1玉2キログラム以上あること、5,000本採取できること、を目標とし、さらに圃場を広げて栽培試験を繰り返すとのことでした。
NECソリューションイノベータ株式会社 久寿居大シニアプロフェッショナル
NECソリューションイノベータ株式会社は、AOIプロジェクトの補助事業に採択された「オープンイノベーション型事業化促進事業」について発表しました。AOI機構の支援を受けてJA遠州中央、慶應義塾大学SFC研究所とコンソーシアムを組み、マニュアル化が困難とされてきた経験や勘に基づく熟練農業者の農業技術を、AI(Agri-InfoScience、農業情報科学)技術で「見える化」し、学習コンテンツとして若手や新規就農者の技術習得に活用できるシステムの開発を行いました。
学習コンテンツの事例として、
- 二番茶後の整枝作業の学習ツール
- 製茶工場の工程学習ツール
- 海老芋育成で残すべき子芋の芽の見分け方の学習ツール
について発表しました。
また、従来の技術学習支援システムである「クラウドサービス型」でなく、「スタンドアロン型」にすることで、知的財産を保護するためのセキュリティが上がり、使用人数が増える程コストメリットが増えるようになった事などの説明がありました。
株式会社アイファーム 成田美幸様
株式会社アイファームは、今回、機能性成分に着目したブロッコリーの開発過程を発表しました。
機能性表示ブロッコリー「ファイトベジブロッコリー」には、スルフォラファンという成分が多く含まれるそうです。これは、肝臓の機能を示すALT値を低下させる機能があり、解毒作用、抗酸化作用、肌の乾燥を防ぐ効果があると言われています。機能性表示取得にあたっては、AOI機構がノウハウの提供や協力機関への橋渡しをしたそうです。
また、機能性表示を取得したことで新たな販売アプローチができたこと、コロナ禍で日々変化する消費者ニーズに対応するためには、販売を意識して生産することが必要、という気付きも発表されました。今後は、小売店舗での販売状況の把握や商品ラインナップを増やしシリーズ化することで、ファイトベジブロッコリーの販路を量販店、大手ECサイト、全国展開をしている高級惣菜店などに拡大するとのことです。
株式会社CREA FARM 西村やす子代表取締役
株式会社CREA FARMは、オリーブオイルを絞った果実の90%を占める残渣の有効活用から生まれた製品について発表しました。残渣にオリーブと同程度の有効成分が含まれていることがわかり、AOI機構を通じてコンソーシアム(同社、不二工芸製作所、エフシー中央薬理研究所、静岡県立大学大学院薬食研究推進センター)を組み、「オープンイノベーション型事業化促進事業」の補助を受け、開発を進めたそうです。
成分分析の結果から残渣に美容成分が多く含まれていることがわかり、抽出素材を「富士山オリーブエキス」と名付けました。次に、製品のカテゴリーをブースター美容液にしました。これは、長引くマスク生活で肌荒れに悩む人が増えていることに着目したもので、それを防ぐための「オリーブの肌和み」オイルインミストを作りました。
また、プロダクトアウト製品の販売の難しさから、今回は化粧品ブランド「草花木果」のフォロワーにプロモーションをするなど、出口戦略についても参考になる説明がありました。
特別講演-JAの挑戦~AgVenture Labの取り組み~
一般社団法人AgVenture Lab 荻野浩輝代表理事理事長
会員企業の事例発表の後は、休憩を挟み、一般社団法人AgVenture Lab荻野浩輝代表理事理事長による特別講演がありました。「AgVenture Lab」はJAグループ8団体がつくる、食と農業と地域の暮らしにかかわる社会課題を解決する起業家、スタートアップを支援する組織です。
イノベーションの領域は5つあり、それぞれ「アグテック」「フードテック」「ライフテック」「ヘルステック」「エイジングテック」、そして「フィンテック」です。
最近の取り組み事例として、農水省と女性誌「フラウ」とのコラボ企画などの説明がありました。これは、女性読者を招いた食品ロス講座や、SDGsのイベントなどで大変話題になったものです。地方自治体との事例としては、福島県庁との共同イベントで復興と農業の未来を語る「アイデアソン」や、富山県庁が東京で開催している起業家塾「富山スタートアッププログラム」が出されました。フランス大使館や商工会議所とイベントをしたり、ルワンダのスタートアップの紹介をしたりするなど海外との連携もしているそうです。
一番大きな活動が「JAアクセラレータープログラム」です。これは、スタートアップ企業を公募し、その中から農業の未来に役立つスタートアップを選び、集中的に支援するプログラムです。その一端が紹介されました。
1期目は192件の応募があり、その中からアスパラ自動収穫ロボットや親子農業体験の企画会社など7社を選び実証実験をしました。2期目は161件の応募、うち8社を選定。現場で廃棄される野菜を粉末化し、ジュースやお菓子の原料に加工する会社や、手押し車を電動アシスト化するキットを作る会社などです。同キットは和歌山のJAで実証実験を行い、販売につながりました。「応募内容は農業IoTの分野が多く、農業ならではの痛みを知った人が作るものはヒットする感じがします」と荻野氏は語ります。他にも、ドローンの許可システムと保険をセットに提供する会社や、農繁期の人手不足を解消する会社など応募は多岐にわたります。
今年は211件の応募から9社が選ばれ、スポーツとJAグループによる新たなプロモーションモデル構築や、選果場の人手不足解決のためのロボットを使った実証事業、JAグループの病院で役立つヘルステックなどが挙げられました。最近はSDGsを意識した案件が多い傾向がみられ、年々レベルが上がっているそうです。
また、「Plant & Grow」という逆指名型で、出資も併せて行うアクセラレータープログラムもあり、現在、農作物のサプライチェーンをデジタル化する会社など2社を支援しているとのことでした。
さらに、アグテックを中心にした国内外のラボをと連携を強化しており、北海道帯広市の「とかち財団」や、宮崎県新富町の地域商社「こゆ財団」などの名前が挙がりました。また、農業や食で起業してくれる若い人を増やそうと、各大学の起業家人材育成の取り組みも幅広くサポートしています。
最後に荻野氏は「今後も様々な人や企業、団体と手を組み、日本の人と食と地域の暮らしの周辺にある課題を解決していきたいと思います」と語りました。会場からは「AOIフォーラム会員との協働も進められれば」との意見が寄せられました。